交通事故における損害賠償請求

司法書士のリアル

今回は交通事故の相談事例を想定して、予想しうる論点についてまとめます。

損害賠償における過失割合の考え方

自動車同士の交通事故の場合、加害者の任意保険会社から被害者に対する損害賠償金が保険金として支払われるわけですが、損害賠償額の算定はどのようにして行われるのでしょうか。100%加害者に責任があると認められるケースは少なく、被害者側の責任の程度に応じて損害賠償額を減額されるケースがほとんどだと思います。このようにお互いの過失を考慮して相殺することを過失相殺といいます。

過失相殺には認定基準というものがあります。交通事故訴訟担当の裁判官が発表したもので、損害保険会社はこの認定基準をもとに過失割合を算定することが多いようです。

別冊判例タイムズに民事交通訴訟における過失相殺率の基本となる認定基準が載っています。

例えば【信号規制がない同じ道幅の交差点で、直進する四輪車同士が同程度のスピードで衝突した】という事例の場合、左から走行してきた車が優先となり、6:4が基本的な過失割合となります。また【青信号で右折進入した四輪車Aと対向から直進してきた四輪車Bが衝突した】いわゆる右直の事故ですが、右折車:直進車は8:2が基本的な過失割合となります。


過失割合を認定するにあたり、次のような事実確認を行います。例えば【信号規制がない同じ道幅の交差点で、直進する四輪車同士が同程度のスピードで衝突した】事故であれば、以下のパターンのうち、当該事故がどれに該当するか判断することが出発点です。

信号のない交差点での四輪車同士の事故で確認するべき事項の例

  • 双方の道路幅
  • 一方通行規制の有無
  • 一時停止標識などの有無
  • 優先道路か否か

当該事故がどの事故態様に当てはまり、基本の過失割合が判明したら、さらにそこから修正するべき事情があるかを考慮します。

  • それぞれの走行スピード
  • 道路状況(違法駐車車両の有無、工事規制の有無等)
  • 道路交通法に反した運転(進路変更時の合図なし、速度超過等)

これらを確認するには事故車両の写真やドライブレコーダーが有効です。

訴訟に発展した場合、事故の発生については交通事故証明書が証拠となり、過失については刑事事件記録が有力な証拠となります。実況見分調書は道路状況や現場の見取り図、当事者の説明が記載されており詳細な情報が期待できますが、物損事故の場合には基本的に作成されません。この場合には、警察署作成の物件事故報告書や供述調書を文書送付嘱託により入手することを検討します。

損益相殺により最終的な損害賠償請求額が決まる

では、加害者に対する損害賠償請求額は最終的にはどのように決まるのでしょうか。

本件事故により被った総損害額×過失相殺率損害の補填として控除すべき金額

となります。具体的に見ていきます。

総損害額に含まれるもの

治療関係費

ケガの治療費、入院費はもちろん、入院中に必要な日用品の購入費、通信費、家族の通院交通費などを入院雑費として請求できます。被害者が未成年者の場合、家族の入院付添看護費も認められる場合があります。目安としては1日5500円〜7000円くらいのようです。個室利用料や医師への謝礼、温泉治療費などは認められにくいですが、退院後のハリ・マッサージの治療については医師の指示があったかどうかにより賠償すべきとされています。

休業損害

基礎収入を確定し、1日あたりの収入額を計算します。専業主婦の場合でも家事従事者としての休業損害を請求できます。裁判例では女性労働者の平均賃金を基礎とした収入額としています。

慰謝料

入院・通院慰謝料については、通称青い本と呼ばれる「交通事故損害額算定基準」(日弁連交通事故相談センター本部編)、赤い本と呼ばれる「民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準」(日弁連交通事故センター東京支部編)により基準額を算定します。例えば入院期間2か月、通院期間1か月の場合144万円〜78万円の間になります。

修理費

車両損害の主な項目としては、修理費、代車使用料、休車損、営業損害、積荷等の損害があります。評価損については車種や経過年数、走行距離によって認められるものと認められないものがあるようです。塗装についても同様に塗装の特殊性や損害の範囲により損害の評価が異なります。
また、修理見積額が車両の時価額を超える場合には経済的全損といい、この場合には修理費ではなく時価額から売却代金を差し引いた買替差額が請求できます。買替時に生じた自動車取得税、重量税、検査登録費、車庫証明費用、納車費用、廃車手数料も請求できます。

レッカー代

レッカー代および車両の保管料は基本的には請求できます。ただし、車両保管料については交渉により長引いたとしても3か月程度の保管料のみ認められるようです。加害者の責めに帰すべき事由により交渉が長引いた事例によっては、それ以上の保管料が認められたケースがあります。

損害の補填として控除すべきもの

次に、総損害額から控除されるべきものについて見ていきます。被害者が当該事故に起因して何らかの利益を得た場合、公平の見地からその利益を損害賠償額から控除するのです。

自賠責保険会社からの受領額

自動車損害賠償保障法16条に基づいて自賠責保険会社から受領した金額は、総損害額から控除されます。被害者が同一事故を原因として受領した搭乗者損害保険金については控除されません。

既払い治療費

被害者の加入する健康保険組合から病院に対して支払われた既払い治療費ついては控除されます。したがって、被害者が自己負担した治療費のみが損害として認められ、健康保険給付分は考慮されないことになります。

その他、加害者が支払った見舞金ですが、社会通念上見舞金として相当な額であれば、控除はなされることはなく受け取ることができると解されています。

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