建物賃貸借トラブル事例と対処法:明渡請求編

司法書士のリアル

こんにちは。気候が良いからなのか、近頃ランチのお誘いが続いてうれしい限りです。とくに平日のランチは格別です♪

さて、今回は家主側からの相談に多い家賃滞納、契約解除、明渡請求についてです。

どのくらい家賃滞納が続いたら解除できるのか

賃貸借契約書の条項の中に「賃料等の支払いを1か月以上怠ったときは、貸主は催告を要せず、ただちに契約を解除できる」というような内容の文言を見かけます。1か月家賃が滞納されたとして、本当に無催告で解除できるのでしょうか。

答えはNOです。無催告解除について民法第542条は次のように定められています。

  1. 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
    1. 債務の全部の履行が不能であるとき。
    2. 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
    3. 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
    4. 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達成することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
    5. 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。

これを家賃滞納のケースに当てはめてみると、1か月程度の家賃滞納では履行不能にも履行拒絶にも当てはまらないわけです。

では、催告解除についての民法第541条ではどうでしょうか。

当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

どのくらいの滞納があれば催告解除できるかですが、一般的には3か月以上の家賃の滞納がある場合には、賃貸借契約の催告解除が有効と解されています。

ただし、但書にあるように家賃の滞納の理由が軽微なものではなく、当事者間の信頼関係を破壊する程度のものである必要があります。例えば、それまで滞りなく支払い続けていたがたまたま家賃の支払いを忘れていたとか、ちょうど不在にしていて支払いができなかったなどの理由だけでは信頼関係を破壊したとは言えません。

何度催告しても払わない、借主に誠意がみられない、長期間にわたって家賃の支払いがない、などの事情があった場合に解除できることになります。なお、4か月にわたる家賃不払いで無催告解除を認めた裁判例があります。

なお、連帯保証人を立てている場合には一度でも家賃の滞納があったならば、すぐに請求できます。家賃保証会社を利用している場合には、すぐに報告して立替払いをしてもらいます。立替払いにも期限がありますので注意しましょう。

具体的な解除の方法

では、実際に解除をするにあたりどのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。

訴訟になった場合を踏まえて、履行の催告とともに履行されないことを停止条件として賃貸借契約を解除する旨の意思表示をします。具体的には借主に対して「1.〇月〇日までに滞納賃料〇〇万円を支払え。 2.同日までに滞納賃料が支払われなかった場合は、本書面をもって本件賃貸借契約を解除する。」 という内容を記載した配達証明付内容証明郵便を送ります。このようにすれば、催告と解除の意思表示を一度にできるわけです。

争いに持ち込みたくない場合は合意解除も有効です。賃貸借契約の合意解除とは、貸主と借主双方が合意することで、契約を終了させる方法です。期間の途中で契約を解除する場合、通常の解約とは異なり、双方の合意が必要です。合意が得られれば、契約期間の残存期間にかかわらず、契約を終了させることができます。この場合でも、口頭だけでなく解除書面として残しておくべきでしょう。

明渡しの強制執行はどのような手続きか

契約が解除されたのにもかかわらず、建物の明渡しもしない場合はどのようにすればよいのでしょうか。

勝手に鍵を替えたり家財を処分したりすると、自力救済といって違法行為を問われることもあります。

一般的には訴訟を提訴して、判決をもって債務名義とし、強制執行をかけるという流れになります。

訴訟においては建物明渡しだけではく、滞納家賃請求も併せて行います。そうしておけば、明渡しの強制執行をかけた場合に部屋に残置物があれば、それを換価して家賃に充当することができます。また、仮に本人が無資力であったとしても将来資力を回復したときに、債権執行もできるようになります。そのためには、判決中に金銭等の支払いを命ずる事項が記載されていることが必要となるのです。

建物明渡しの強制執行、動産執行はそれぞれ6万5000円の予納金が必要となります。そのほかにも、残置物の保管費用、処分費用、清掃費用などがかかる場合があり、部屋の広さによっては数十万円にも上る場合があります。

具体的な訴訟手続き

合意解除に至らず法的手段を取らざるを得ない場合、そのような手段をとればよいのでしょうか。

通常訴訟のほかに、請求額が60万円以下であれば少額訴訟、訴え提起前の和解、調停、国民生活センターによるADR(裁判外紛争解決手続)、家賃請求飲みなら支払督促、が挙げられます。保全が必要であれば、家賃等請求訴訟の前提として仮差押え、明渡請求訴訟の前提として占有移転禁止仮処分、債務名義取得後(判決後)は明渡執行、動産執行、債権執行を組み合わせることになります。

少額訴訟とは60万円以下の金銭の支払いを求める訴訟で、簡易裁判所において1回の審理で解決を目指す裁判手続きです。書類や証人の準備を簡略化し、原則として1回の期日で審理が終了し、即日判決が言い渡されます。判決が確定すれば債務名義となり、強制執行も可能です。ただし、建物や土地の明渡し請求は審理できないため通常訴訟によらざるを得ませんので注意が必要です。

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