最近気になる家族信託とは

ツナグ相続

新年最初のテーマは「家族信託」を取り上げたいと思います。

生前対策として、家族信託というワードをご存知の方も増えてきて、無料相談会などで多くお問い合わせいただくようになりました。今回は家族信託の概要についてお話していきます。

背景にある超高齢化社会の問題点

人生100年時代を迎えるといわれる昨今、平均寿命は年々延び、35年後の2060年には男性84.66歳、女性91.06歳となることが見込まれています。医療技術の発達により長寿化となっている反面、認知症の問題が生じてきています。法律上必要とされる判断能力がなくなり、所有する財産の処分、活用を行えなくなる「不健康寿命」も長寿化しているともいえるのです。

これまでの生前対策としては相続税対策が主でしたが、これからの時代は生前の財産管理、遺産分割対策もあわせて行なっていく必要性があるのです。

これまでの生前財産管理対策

1.生前贈与

認知症リスクを考えた場合、早めに子に財産を承継し管理させたい、といった希望に対応できる便利な制度なのですが、不動産、自社株式など高額な財産については、贈与税、不動産取得税、登録免許税が高くかかってしまうデメリットがあります。

2.遺言

遺言は本人が亡き後の資産承継について決めることができる制度ですが、あくまで本人の相続に関してのみであり、二次相続以降や配偶者や子以外の第三者にまで効力を及ぼすことはできません。死亡により効力が生じるため、生前の財産管理を決めることはできません。また、生前であればいつでも撤回、書換えができるため、本人の判断能力が衰えてしまうと、悪意ある親族により本来の意にそぐわないかたちでの遺言になってしまうリスクも考えられます。

3.生命保険

ある特定人に受取人指定をしておけば、遺産分割協議を経ることなく特定人に財産を承継させることができます。相続財産とはならないため、遺産分割の対象となることもありません。相続税の非課税枠があるので相続税対策としても有効です。ただし、不動産や自社株式は対象にすることはできません。

4.成年後見、任意後見制度

成年後見制度とは、本人の判断能力が不十分となった場合に、法定代理人(成年後見人)が本人のために本人に代わって「法律行為」「財産管理」「身上監護」をする制度です。家庭裁判所に後見開始の申立てをし、法定代理人を選任してもらい、家庭裁判所の監督のもと本人の財産管理を行います。具体的には介護施設との契約や預貯金の管理、不動産売買の契約などです。基本的に「本人の財産を本人のために維持管理すること」の範囲内での代理となるので、積極的な資産運用はできなくなります。また資金を支出する度、成年後見人に相談しなければならず、柔軟な財産管理は難しくなります。

任意後見制度は、本人が元気なうちにあらかじめ、任意後見人となる方を決め、将来その方に委任する事務の内容を公正証書による契約で定めておき、本人の判断能力が不十分になった後に、任意後見人が委任された事務を本人に代わって行う制度です。任意後見契約は、家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時、から効力が生じます。つまり、成年後見と同じく、本人の判断能力が不十分になってはじめて契約の効力が生じます。また、受任できる事務の内容も成年後見同様、積極的な資産運用は含まれず、高度な財産管理はできません。

民事信託の制度化

上記のような生前対策の問題点を解決すべく、民事信託、いわゆる家族信託の制度が整備されることとなりました。

2007年に信託法が改正され、従来まで信託銀行や信託会社しか認められていなかった信託が、一般の方でも活用できるようになりました。営業として行う信託を「商事信託」というのに対し、営業として行わない信託を「民事信託」といいます。民事信託の中でも、信頼できる家族間で行う信託のことをわかりやすく「家族信託」と呼ぶのが一般的です。

家族信託は、新しい財産管理対策と遺産分割対策の手法です。資産を持つ人(委託者)が自分の老後や介護などに必要な資金、不動産の管理、自社株の議決権行使などを信頼できる家族に託し、本人のために管理や処分を任せる仕組みです。

家族信託の仕組み

「委託者」「受託者」「受益者」の違いを理解する

家族信託の仕組みを簡単に表すと次のようになります。

  • 財産を託す人=受託者
  • 託された財産を管理・運用・処分する人=受託者
  • 信託により得られた利益を得る人=受益者

委託者(本人)は所有する財産を信頼できる家族(例えば息子など)に信託、つまり名義を預けます。信託された息子=受託者となり、委託者のために財産を管理します。財産を管理する中で得られた利益は受益者のものとなります。受益者=委託者と設定しておけば、委託者本人が利益を享受することができます。

財産の名義を預ける、の意味を説明します。信託をすると財産の名義は形式的に受託者へ変更されますが、財産が受託者の所有になったわけではありません。受託者は自分の財産と信託財産が混在しないようにする分別管理義務があります。具体的にみていきます。

不動産

信託に伴い、所有権移転+信託の登記が入ります。名義は受託者へ変更されますが、同時に信託目録が作成され、その中で委託者、受託者、受益者それぞれの氏名が登記されていることがわかります。

信託目録の中には、信託契約で定めた「信託の目的」「信託財産の管理方法」「信託の終了事由」などが登記されます。

金銭

委託者の預貯金口座のままでは、受託者は入出金や振込みなどの手続きはできません。そこで、受託者名義の信託口口座を開設します。この信託口口座へ信託契約で定めた額の金銭を入金することで、受託者個人の預金口座と委託者から信託を受けた金銭を分別管理することになります。信託契約後の金銭や信託不動産からの家賃収入、経費の支払いなどはこの信託口口座で管理を行います。

有価証券

上場企業の株式や投資信託も信託法上の信託財産の対象となりますが、実務上、取扱いをしている証券会社がごくわずか、という現状です。ですので、株式を金銭化して信託財産にするか、信託財産には入れずに代理人として管理しているケースが多いです。これからの金融実務の整備が待たれているところです。

信託できない財産に注意

信託法上、信託するものは「財産」と規定されており、財産的な価値があるものしか信託の対象になりません。ローンや借金、保証債務といった消極財産は信託することはできません。

農地については、農地法の制限を受けるため注意が必要です。現況が農地の場合、農地法の許可または届出がないと移転ができないため、信託の対象となりません。現況が農地以外の場合は信託はできますが、登記簿上の地目を農地から農地以外へ変更する手続きが必要となります。

借地権も信託契約することはできます。借地権には地上権と賃借権の2種類あるのですが、賃借権の移転には民法上、賃貸人の承諾が必要となります。信託契約が賃借権の移転にあたるのかどうかは今後の実務の動向次第、なのが現状ですが、賃貸人との円満な関係性を保つためにも賃貸人の承諾を得ておくことが望ましいといえます。

長くなりましたので、今回は概要の説明に留め、次回から具体的な活用法についてお話を進めていきます。

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