さて、今回は遺産分割協議とは何かについてのお話になります。
場面としては、被相続人が亡くなって相続が発生した場合、かつ遺言書が残されていなかった場合、となります。
相続が発生すると、何もしなければ法定相続といって、民法で決められている相続割合によって相続人が遺産を相続することになります。つまり、不動産や預貯金、株式などすべての財産を相続人全員で共有する状態になるわけです。
共有者の有する権利は単独で所有権を有する場合の内容と違いはなく、共有者の共有持分はそれぞれの共有者が自由に処分することができます。しかし、共有物全体の処分に関しては、共有者全員の同意がなければ行うことができません。
例えば、相続した不動産を売却しようと思っても全員の同意がなければできません。具体的には、相続人全員の印鑑証明書、登記識別情報(いわゆる権利証)を揃えて、売買契約書、委任状などすべての書類に相続人全員の署名・捺印が必要になります。
こうした煩わしさを解消するために、例えば、A不動産は妻、B不動産は長男、株式は長女、というように個別具体的に相続する財産を決めてしまうのが遺産分割協議です。相続人同士の話し合いで、遺産の分割方法や、だれが何を相続するかを決定します。
遺産分割協議は大多数の方が選択される相続の方法であり、法定相続される方のほうがむしろ少数派です。
遺産分割協議を行うときに注意すべきこと
相続人全員による協議が必要
遺産分割協議は、相続人全員が参加しなければいけません。話し合われた内容は最終的に全員の合意を得る必要があり、相続人のうちの誰か一人でも納得しない人がいる限りは遺産分割協議が整うことはありません。また、もし一人でも協議に参加していない相続人がいる場合、たとえ遺産分割協議がまとまったとしても、原則的にその遺産分割協議は無効となってしまいます。
相続人の中に未成年者がいる場合
相続人に未成年者がいる場合は、親(両親がいれば2名とも)が代わりに遺産分割協議に参加します。
しかし、親自身も未成年者と同様に相続人である場合、立場的に利益が相反する関係となるため未成年者の代わりに遺産分割協議に参加することはできません。このようなケースでは、利益相反する親の代わりとなる「特別代理人」を家庭裁判所で選任してもらい、選任された特別代理人が未成年者の代わりに遺産分割協議を行います。
債務は協議の対象とならない
原則として借金など債務は遺産分割協議の対象外です。被相続人の借金は、法定相続分に従って相続人全員が負担します。金銭債務は、相続開始と同時に、各相続人が法定相続割合に応じて、当然に負担することになります。
仮に遺産分割協議によって、特定の相続人が全ての財産を取得する代わりに、借金も全て負担する、という合意が成立したとしても、それはあくまで相続人間の取り決めにすぎず、債権者(借金の貸主)に対しては、法定相続割合に応じた借金の支払い義務を負うことになります。
遺産分割協議内容のポイント
ここからは相続税と関係するので、相続税について簡単に説明します。
原則として、相続税の課税価格が遺産に係る基礎控除額を上回るときのみ相続税が課され、相続税の申告が必要となります。基礎控除額の計算式は、以下のとおりです。
遺産に係る基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
相続税の課税価格が基礎控除額よりも多く、相続税の申告が必要な場合に、遺産分割協議をうまく使うことで節税になるケースがあります。
配偶者控除を利用する
相続税の配偶者控除とは、夫婦のうちのどちらかが亡くなり、配偶者(夫または妻)が遺産を相続した場合に、その遺産額が「1億6,000万円」または「法定相続分」までであれば、相続税が非課税とされる制度です。正式には、「配偶者の税額軽減」といいます。
配偶者の法定相続割合は1/2ですので、どんなに財産が多くても配偶者は法定相続割合までの相続であれば相続税がかかりません。また法定相続割合である1/2を超えたとしても、1億6千万円まではかかりません。
このように配偶者の将来の生活が困らないように配慮されたものが「配偶者控除」で、遺産分割は配偶者ができるだけ多く受けとるようにする方が、節税になると言えます。
ただし二次相続まで考慮する必要がある
相続税の配偶者控除は税額の軽減効果が大きいため、これを最大限に使うことが有利のように見えますが、一つ注意しなければなりません。
配偶者控除を限度まで使って配偶者の取得する財産額を多くすると、次にこの配偶者について相続が発生して子が相続するときに、子の相続財産の額は当然多くなります。そして相続税は累進税率が適用されるため、子の負担する相続税額は増加してしまいます。
つまり、配偶者が相続人になる1回目の相続(一次相続)と、子だけが相続人になる2回目の相続(二次相続)との合計の税額で判断しなければ、配偶者控除を有効に使えたかどうか正確には分からないといえます。専門家に相談すれば、二次相続まで含めた相続税のシミュレーションを行って検討することが可能です。
数次相続にも関わらず中間省略登記ができる
数次相続とは、被相続人が亡くなり相続が開始した(一次相続)けれども、遺産分割協議や名義変更手続をする前に、その方の相続人も亡くなってしまった状態(二次相続)を言います。数次相続における相続登記は、原則として、一次相続の相続登記、次に二次相続の相続登記という順番で行います。中間の相続を省略して登記することはできません。
しかし、遺産分割協議を利用することで、何代も前の相続にも関わらず、途中の相続登記を省略できるようになります。
【事例】祖父が被相続人、次の順番でそれぞれ亡くなった場合を考えます。このほかの相続人はいないものとします。
❶祖父死亡→❷父死亡→❸叔父死亡 父の子:A 叔父の子:B
遺産分割協議をしなかったとすると、①父と叔父名義に相続登記 ②父の持分につきA名義に相続登記 ③叔父の持分につきB名義に相続登記 という3回の相続登記が必要になります。
ところが、AとBとの間で「不動産についてはAが相続する」という遺産分割協議をしたとします。すると、①②③の登記を省略して、いきなり祖父→Aの相続登記ができるようになるのです。これを中間省略登記といいます。
中間省略登記が認められるには次の条件があります。
中間の相続人が最初から一人であった場合 中間の相続人が複数名いたが、相続放棄や遺産分割協議などでその中の一人が相続した場合
先ほどの事例に戻って、AとBとの間でした「不動産についてはAが相続する」という遺産分割協議を分析すると下記の内容を含んでいる、と解することができます。
- Aは、父が祖父を相続する(遺産分割協議に参加する)権利を相続した。
- Bは、叔父が祖父を相続する(遺産分割協議に参加する)権利を相続した。
- Aが、最終的に相続したということは、一旦、父が相続していた(叔父には行かなかった)、つまり中間の相続人は、父一人だった。
このように解することができるため、中間省略登記が可能になる、というわけです。
最後の論点はかなり実務寄りの内容になってしまいましたが、司法書士試験に直結するため、司法書士試験受験生にとってはしつこく勉強する論点ではあります。