遺贈する場合に気をつけたいこと

登記実務

お盆休み、いかが過ごされましたか。法務局にはお盆休みはないので、司法書士も基本的にはお盆休みはありません。それぞれが交代でお休みする事務所が多いようです。

私はなかなか家族の予定が合わず、都内への食事と、都内の実家に帰っただけでした・・

専らの楽しみであるガーデニングの延長で、枯葉や雑草に米ぬかを混ぜて堆肥を作ったり、ハーブから虫除けを作ったり、地味でエコな活動に終始しました。

さて、最近“遺贈”を扱うことが多く、しかもそれぞれ形態が異なるので勉強になっています。

遺言書の文言により登記の取り扱いが変わる

遺贈とは、遺言書によって、亡くなった人の遺産の全部または一部を、法定相続人以外の人に無償で受け継がせることです。遺贈においては、遺産を贈る側の人を「遺贈者(いぞうしゃ)」と呼び、遺産を受け継ぐ側の人を「受遺者(じゅいしゃ)」と呼びます。

贈与する相手が相続人なのか、相続人以外なのか、贈与する財産が全部なのか特定の一部なのか、また、遺言書の文言が「相続させる」なのか「遺贈する」なのかで登記実務の扱いが異なります。

相続人全員相続人の一部相続人以外
全てを「遺贈」する相続遺贈遺贈
一部を「遺贈」する遺贈遺贈遺贈
「相続」させる相続相続※遺贈

司法書士受験生界隈では有名な表だと思います。間違えがちなところなので私も何度も復習しました。

原則は遺言書の文言どおり、赤字のところだけ例外、と覚えておくと理解しやすいです。

※印のところは下記の先例があります。

特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。(最判平3・4・19民集45・4・477)

登録免許税の税率が異なる

では、「遺贈」と「相続」では具体的な手続きにおいてどのような違いがあるのでしょうか。

まず、登録免許税の税率が異なります。相続の場合は「登記時点の固定資産税評価額の1,000分の4(0.4%)」ですが、遺贈の場合は「登記時点の固定資産税評価額の1,000分の20(2.0%)」と、遺贈の方が税率は高くなります。

ただし、遺贈された人が法定相続人である場合は、相続と同じ「登記時点の固定資産税評価額の1,000分の4」になるという規定があります。遺言書の文言により税率が異なってしまうのは不公平だからです。「法定相続人であれば1,000分の4」「法定相続人以外の人は1,000分の20」と考えておけばよいでしょう。

特定遺贈は不動産取得税がかかる

亡くなった人の財産に不動産があり、その不動産を取得する場合、相続や包括遺贈であれば不動産取得税は課税されませんが、特定遺贈だと不動産取得税が課税されます。

不動産取得税とは、売買や贈与等によって、不動産(土地や家屋)の所有権を取得した時に、その不動産を取得した人に一度だけ課税される税金です。

特定遺贈によって不動産取得税が課税される場合、計算式は【不動産取得税=不動産評価額(固定資産税評価額)×税率】となります。

なお、不動産取得税は、土地や住宅用の建物だと税率3%、住宅以外の建物(店舗や事務所)だと税率4%です。※不動産取得税については軽減措置もあります

登記の申請構造が異なる

ここからはかなり登記実務的な話になりますが、「遺贈」と「相続」では登記の申請構造が異なります。

遺言書の文言が、相続人Aに不動産を「相続させる」となっている場合は、相続人Aが単独で相続登記(不動産の名義変更=所有権移転登記)をすることができます。

遺言書の文言が、相続人Aに不動産を「遺贈する」となっている場合は、

  • 相続人A
  • 他の相続人全員

が共同で手続きを進める必要があります。権利者=相続人A、義務者=亡くなった人の共同申請となり、亡くなった人の権利義務承継者として相続人全員が手続きをする必要があります。

遺言執行者を必ず指定するべき

ところで、遺贈をされる方の特徴として、配偶者や子どもなどの身近な家族がおらず相続人がいない、もしくは兄弟姉妹さらには甥姪など遠縁の親族が相続人でしかも多数、という傾向があるように思います。

遠くの親戚より近くの他人、という言葉もあるように、相続人よりも生前お世話になった方に財産を遺したいと思う方が多くいらっしゃいます。

ところが、先ほど挙げたように、「遺贈」による登記申請をするには相続人全員の手続きが必要となります。具体的には全員の印鑑証明書を揃え(場合によっては戸籍も)、登記の委任状に全員実印で署名捺印をする必要があるのです。相続人が多数に及んだり、海外居住者や長年音信不通の相続人などが含まれる場合にはとても煩雑な手続きとなります。

遺言執行者を指定しておけば、そのようなことを回避することができます。

遺言執行者とは相続人に代わり、遺言の内容を実現する人のことです。遺言執行者は未成年者及び破産者以外であればどなたでもなることができます。受遺者=遺言執行者に指定しておくこともよくあります。司法書士などの専門家を指定することもできます。

亡くなったあとに受遺者から遺言執行者選任の申立てをすることもできますが、選任されるまで1ヶ月半ほどかかります。

遺贈を考えておられる方、遺言書には必ず遺言執行者を指定されておくことをおすすめします。

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