遺言書の種類で添付する戸籍が変わる?

登記実務

お盆明けからにわかに忙しくなり始め、8月末から9月初めにかけて年度末並みに立て込みました。不動産売買、相続、ともに多くの案件をいただきました。こんな猛暑だというのにお客様の出足が鈍ることがなく、皆さまのパワフルさを見習わなければなりません。

さて、最近は終活の一環としての遺言書の作成もだいぶ浸透してきたようで、遺言書をもとに相続登記をすることも珍しくなくなってきました。

そこで、遺言書による相続登記の実務について具体的にまとめます。

遺言書により必要な手続きが異なる

自筆証書遺言による相続登記の場合

自筆証書遺言は相続登記の際にそのまま添付書類として使用できません。自筆証書遺言を添付書類とするためには、必ず家庭裁判所での「検認」の手続きが必要になります。

検認とは遺言書の偽造を防ぐために相続人全員に対して内容を確認し、開封する手続きのことです。検認が済むと自筆証書遺言に「検認済証明書」が付き、相続登記の際に添付書類として使用できるようになります。

公正証書遺言による相続登記の場合

公正証書遺言は公証役場で厳重に保管され偽造の恐れがないため、検認が不要になります。自筆証書遺言の場合と異なり、検認を経ることなくそのまま相続登記の添付書類として使用できます。

さらに公正証書遺言は公証人が作成するので方式不備によって無効になる可能性が低く、公証人が立ち会うことから、遺言書が遺言者の真意に基づいて作成されたことを強く推認します。そのため、公正証書遺言が残されている場合は基本的には遺言書の内容通りに相続手続きを進めていくことになります。

公正証書は公証人が作成する法的な書類で、原本が公証役場で保管されています。不動産の所有者の死後、公証役場の遺言検索システムを使用し、公正証書遺言の有無を調査することができます。

相続登記に必要な書類はケースにより変わる

では、不動産の相続登記を申請するにあたり、必要な添付書類を見ていきます。

原則は次に挙げたものになります。

  1. 遺言書の正本または謄本
  2. 被相続人(遺言者)の死亡が記載されている戸籍謄本
  3. 被相続人(遺言者)の住民票の除票または戸籍の附票
  4. 不動産を取得する相続人(複数名であれば全員)の戸籍謄本
  5. 不動産を取得する相続人(複数名であれば全員)の住民票
  6. 相続する不動産の固定資産評価証明書

これには例外がいくつかあります。

公正証書の場合、上記❹不動産を取得する相続人(複数名であれば全員)の戸籍謄本が不要、とする見解もあります。なぜなら、公正証書遺言を作成する際に、戸籍はすでに提出し、相続関係を確認済みだからです。下記は公正証書遺言作成時に必要な書類です。(日本公証人連合会HPより抜粋)

  1.    遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
       相続人が甥、姪等、その本人の戸籍謄本だけでは遺言者との続柄が不明の場合は、その続柄の分かる戸籍謄本をも準備してください。
  2.    受遺者(遺言者の財産の遺贈を受ける者)の住民票、手紙、ハガキその他住所の記載のあるもの
  3.    固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書
  4.    不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)
  5.    預貯金等の通帳またはそのコピー等
  6.    証人の確認資料
       遺言公正証書を作成する場合、その場に立ち会う証人2名が必要です。ご自身で証人を手配される方は、証人の住所、氏名、生年月日の分かる資料(例えば、運転免許証のコピーなど)をご準備ください。
  7.    遺言執行者の特定資料
       相続人または受遺者が遺言執行者になる場合は、その方を特定する資料は不要ですが、それ以外の方を遺言執行者とする場合は、その方の住所、氏名、生年月日が確認できる資料(例えば、住民票や運転免許証のコピーなど)を準備してください。

遺言書の内容が、「相続人相続させる」ではなく「相続人以外遺贈する」である場合、注意を要します。上記❷被相続人(遺言者)の死亡が記載されている戸籍謄本を添付することは原則通りですが、問題は受遺者の戸籍が必要なのかどうかです。

実体に則して考えるならば、受遺者が相続人ではない第三者である場合、被相続人の除籍以外の戸籍等の添付は不要となるはずです。

ところが、実務上は要求されることが多いです。理由は登録免許税の違いにあると思われます。相続の登録免許税は4/1000、遺贈の登録免許税は20/1000となります。

ここからややこしい話になりますが、「相続人遺贈させる」との文言があっても、登録免許税は4/1000となります。相続人への相続と均衡を図るためです。そして、相続人の戸籍を添付することにより、相続人であることを証明するのです。

それとは逆に、「相続人以外遺贈する」の文言があった場合、相続人でないことを証明する戸籍を添付するのが実務上の取り扱いです。

さて、相続人でないことを証明する戸籍、とはどこまでの範囲をいうのでしょうか。

被相続人の出生〜死亡の戸籍を提出すれば、配偶者、子、直系尊属ではないことが証明されます。さらには直系尊属の出生〜死亡の戸籍を提出することで、兄弟姉妹ではないことも証明されます。そこまでで足りるのではないかと考えていたのですが、結局兄弟姉妹の出生〜死亡、さらには現存する相続人の現在戸籍もすべて提出しました。

たまたま(というか他の手続きで使用したため)、そこまでの戸籍を揃えていたので、すぐさま提出することができましたが、相続人を特定するところまではしなくてもよいのではないかと思っています。

例外1、例外2については法務局によっても取り扱いが異なるようですので、その都度確認が必要です。戸籍の取得には1週間程度はかかりますので、心配なときには予め確認しておいた方がよさそうです。

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