実務的で堅苦しい内容が続いたので、少し日常的なエピソードを綴ってみます。
司法書士として勤務を始めて10ヶ月が経とうとしています。
ありがたいことに、初めから相続の分野に携わらせてただいており、受任した件数は月平均で約7、8件、電話のお問い合わせ対応を含めると月10件くらいはお客さまとお話する機会があります。
郊外の住宅街にある事務所ですから、ご相談の内容はごく一般的で、親御さんが亡くなったので自宅の土地・建物の相続登記、預貯金の相続手続きをお願いしたい、というものがほとんどです。
相続人が複数おられる場合、法定相続により皆さまで共有名義にしても、そのあとの使い勝手があまりよろしくはないので、どなたかお一人に遺産分割協議をするケースが多いですね。
この遺産分割協議にしても、わりと皆さまご相談に来られる前からなんとなく方向性が決まっておられるので、さほど時間を要することもなくスムーズに進むケースが多いです。(そもそも紛争性のある事案に関しては、司法書士はお手伝いできないことになっていますので、そのようなケースは弁護士に依頼することになります。)
でも、ときどきそうでないこともあります。
兄弟姉妹間の相続は注意が必要
私が勤務して間もない頃、あるご相談を受けました。
内容は「兄弟が亡くなったが子どもも配偶者もおらず、自宅を所有していた。父は亡くなっており、母は判断能力が落ちているので、自分(依頼者)に名義を変えることは可能か。」とのことでした。ご自身でもお調べになられていたようで、必要書類や税金のことなど事細かにご質問を受けました。
母が存命なら母が相続人となるので、兄弟である依頼者は相続できません。そもそも相続人でなければ遺産分割協議もできないので、答えは「できない」ということになります。
しかし、そのとき私は電話越しで咄嗟の判断ができず、曖昧なお返事をしたまま面談の日を迎えました。
その依頼者さまはご自身が相続できると期待して来られたようで、ご相談を進めるうちにそれが不可能であるとわかるや否やお怒りになって帰られてしまいました。私は大変反省し、兄弟間の相続には注意をしなければならないことを肝に銘じたわけですが、お母さまへの相続登記のご相談もなさらずに帰られてしまわれたことに、違和感を感じました。
歩くのがやっとのお母さまと、それを急かすようにして帰られた依頼者さまを今でも思い出します。亡くなられたご兄弟が生前どのようなお考えだったのかは分かりませんが、今後のご家族さまが少し心配になりました。
おひとりさまの場合は生前対策が有効
先ほどの例はお母さまがおられるケースでしたが、ご両親ともに他界され、お子さまもいらっしゃらないとなると、ご兄弟が相続人となります。しかし、ご兄弟同士遠方に住まわれていて、長い間連絡も取り合っていない、という方は多くいらっしゃいます。また、ご兄弟は年齢が近いこともあり、ご高齢であったり、判断能力が衰えておられることもあるでしょう。ですので、ご兄弟へのご相続を躊躇されるケースは案外多いです。
いざ、そのような事態を避けるためにはどのようにしたらよいのでしょうか。
どなたか生前にお世話になった方へ遺贈されたい場合は、遺言書を作成しておくのが有効です。
元気なうちにすっきりさせたい場合は、生前贈与という形をとることもできます。
早めの準備が大切
先日受けたご相談で、このようなものがありました。
ご高齢のご婦人所有の不動産について、義理の親族の方へ遺贈するという内容の遺言書作成をお願いしたい、というご依頼でした。準備を進めていたところ、ご婦人の容体が急変してしまい、数週間後にお亡くなりになってしまわれました。
当然ながら遺言書の作成はできませんので、遺贈はできなくなりました。
相続人はご兄弟、さらにはすでにお亡くなりになられているご兄弟もおられたので、そのお子さま(被相続人からみて甥姪)ということになります。そこで、相続人のうちのお一人とお手続きを進めさせていただくことになるわけですが、兄弟同士ならまだしも、甥姪までは連絡先もわからない、とのこと。嫁いだ先のご親族にお世話になったのだから、生前にきちんとした形で対策しておいてほしかった、と困惑されていました。
元気なうちは相続のことなど考えていても、具体的に対策を進めるのはハードルが高いのかもしれません。でも、“そのとき”は思わぬかたちで現実になることもあり得ます。残された方に負担をかけないためにも、早めの準備をしておくことが大切です。
あるとき、仲良し三姉妹が来られたのですが、ご相続の相談とは思えないほど皆さま明るく、旅行のお話や亡くなられたお母さまの思い出話をされていらっしゃいました。生前の故人とご家族の様子が垣間見られたようで、微笑ましく感じました。
それまでどのような人生を歩んでこられたのか、一瞬にして透けて見えることがあります。
誰しも生き様はさまざまですが、人生の最後は心穏やかに迎えたいものですよね。