誤解されがちな相続放棄

相続

お盆休みに入った途端、ものすごい豪雨・・

すっかりガーデニング三昧で植物たちに惜しみない愛情を注いできただけに、植物たちが心配で心配で、でもなす術もなくただ見守るだけの2日間でした。

大学生の息子は、遠泳部のために1ヶ月間千葉の海で合宿中なのですが、初日はカムチャツカ地震による津波警報で足止めを喰らい、肝心の遠泳もこのところの大雨の影響で延期になりました。

自然の猛威を目の当たりに、人は無力です。でも、大雨のあとには涼しい風が吹いて、猛暑をひたすら耐え抜いた庭木に新芽が芽吹いてきました。抗わず、置かれた場所で懸命に咲く姿に勇気をもらいます。

相続放棄の期限はいつが起算点なのか

さて、今日は相続放棄について考えます。

奇しくも同じような内容のご相談が2件続きました。内容はこうです。

〇〇市から身に覚えのない税金の支払い請求の通知書が届きました。

よく見ると、疎遠だった親戚が亡くなり、その方の市民税(あるいは固定資産税)が未納でその請求のようです。

生前も交流はほとんどありませんでしたし、亡くなったこともその通知が来て初めて知りました。亡くなってから1年近く経っています。どうすれば良いでしょうか。

ご存知のように、相続放棄するには期間が決められています。

第915条【相続の承認又は放棄をすべき期間】

① 相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。

② 相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。

この3ヶ月の期間ですが、始期はいつでしょうか。

誤解されがちですが、「相続」からではありません。「自己のために相続の開始があったことを知った時」からなのです。

上記の事例でいうと、〇〇市からの通知が届いたときから3ヶ月以内に相続放棄の申述をすればよいことになります。慌てず、司法書士へ相談してください。

ところで、なぜ疎遠であった親族の税金の支払い請求が届いたのでしょうか。

おそらく、順位の早い相続人から次々と相続放棄をした、ということが考えられます。今は、生涯独身の方も少なくなく、配偶者や子がおらず、父母も亡くなっている場合には、兄弟、ひいては甥姪が相続人になります。会ったこともない遠くのおじ・おばの相続が降りかかる可能性は大いにあるのです。

遺産分割協議で済むことが多い

ところで、家族に相続が発生した場合に、「私は〇〇の所持していた不動産はいらないから放棄したい」というご相談も多くいただきます。

相続放棄は要式行為といって、家庭裁判所に申述をしなければ効力は生じません。

第938条【相続の放棄の方式】

相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。

家庭裁判所へ申述するとなると時間もかかりますし、専門家へ依頼すれば費用もかかります。相続放棄とは、「被相続人の財産も借金も、何もかも相続したくないので、最初から相続人ではなかったことにしてください」と、国の機関である家庭裁判所に申述をして、家庭裁判所に認めてもらうことなのです。

先ほどの相談者の意図するところはそうではないように思います。

不動産などの特定財産は相続するつもりはない、ということであれば遺産分割協議で解決することがほとんどです。

相続放棄をおすすめするケースは、プラスの財産よりもマイナスの財産が多い場合や、他の相続人と一切かかわりを持ちたくない場合などです。

一度相続放棄を選択するとあとから撤回できなくなりますし、遺留分もそもそもなくなることになります。相続放棄を選択するにあたっては慎重に検討すべきです。

理解が難しい限定承認

相続には限定承認という制度もあります。

こちらも誤解を受けがちですが、ある特定の財産のみを限定して相続するという意味ではありません。

限定承認とは、相続によって得た財産の限度においてのみ、被相続人の債務及び遺贈を弁済するとの留保を付けて相続を承認することです。

単純承認や相続放棄との違い

相続放棄は被相続人の権利義務を一切承継しない制度、単純承認は被相続人の権利義務を全面的に承継する制度であるのに対し、限定承認は積極の相続財産で弁済可能な限度で消極財産を承継する制度であり、両者の中間的な位置づけということができます。

限定承認をすすめるケースは次の2つの場合のみです。

  1. マイナスの財産が多いことは明らかだが、どうしても引き継ぎたい財産がある場合      家業を引き継ぎたい、ご実家を残したい場合などが当てはまります。限定承認をした相続人には先買権が認められています。先買権とは、相続した不動産などが競売にかけられた場合に、優先的に取得することができる権利です。
  1. プラスの財産とマイナスの財産がどれくらいあるのか分からない場合           単純承認すると後から多額の債務が発覚した場合に相続放棄をすることができませんし、相続放棄するとプラスの財産が多い場合でも引き継ぐことができなくなります。

限定承認は相続放棄と同じく要式行為であり、また相続人全員で申立てる必要があります。また、その後、相続財産の精算手続きに入るため非常に煩雑です。相続人が複数人存在する場合は、相続人の中から相続財産清算人(代表者)を選任し、その者が手続きを進めることになります。

一概に相続放棄、といっても相談者の意図はさまざまなので、司法書士としてはよくヒアリングすることが大切になります。

タイトルとURLをコピーしました