これからの司法書士が担うべき業務の一つとして、「相続登記義務化」に伴う相続登記があります。
ご存知の方も多いと思いますが、令和6年4月1日から相続登記の申請義務化がスタートしました。CMも流れ、TV番組でも特集を組んだりされているので、世間の認知度は上がってきたと感じます。
増え続ける空き家
なぜ、「相続登記義務化」なのでしょうか。
大きな要因の1つとして、空き家問題が挙げられます。2013年の総務省調査によると全国の空き家数は約820万戸、全住宅の7戸に1戸が空き家という状況になっています。これが、2033年頃には空き家数2,150万戸、なんと全住宅の3戸に1戸が空き家になってしまうという民間予測となっています。
適切に管理されず放置された空き家は損傷しやすく、台風で外装材や屋根材が飛んだり、地震により倒壊したりする危険性が高くなります。また、ごみの散乱や外壁の破損・汚れが放置されるなど、衛生上や景観上の問題をもたらすおそれがあります。
さらに、不法侵入者の出入りによる周辺地域の治安の悪化につながるほか、立木の枝のはみ出しにより周囲の建物を傷つけるなど、近隣住民の生活に深刻な影響を及ぼすおそれがあります。
適切な管理をせずに空き家を放置することは、所有者やその家族だけでなく、近隣地域全体に大きなデメリットをもたらします。
そもそも、なぜ空き家になってしまうのでしょうか。空き家の多くは高齢者が住んでいた自宅、もしくは親から子供たちが相続した実家です。
親が自宅を所有している場合
高齢になる親が老人ホームなどの高齢者住宅や子供宅などに転居して自宅が空き家になった場合、自宅を利活用するにはいくつもの壁があります。片づけを始めてもなかなか整理が進まなかったり、最期は家に戻りたいと思っていたり、認知症を患い利活用の判断ができなくなってしまっていたりといったものです。
たとえ、子供たちから管理が大変だという理由などから売却を勧めても、同意してくれる親は多くありません。このようなことから高齢者の自宅は長い間、空き家状態になってしまっているのです。
子が自宅を相続している場合
実家の利活用に躊躇するのは親だけではありません。子供たちが相続した後も実家の利活用は簡単ではないのです。子供たちは実家から離れた場所に住んでいることが多く、利活用について具体的に進めることができないまま時間が経ってしまうことも多くあります。
また、利活用について兄弟間で争いになってしまうケースもあります。そうして、売却の話も進まないまま、相続登記もされないまま、放置されてしまうことになってしまうのです。
相続登記されていないことのデメリット
東日本大震災による町の高台への移転の際の用地買収において、何代にもわたり相続登記がされていない土地が原因で、移転事業が遅れてしまいました。
また、近年の地球温暖化の進行や異常気象の発生による自然災害の頻発やその影響を考慮し、国土交通省は、「高台まちづくり推進方策検討ワーキンググループ(WG)」を設置し、高台にまちを構築する方策を模索しており、こ都市計画や防災対策の一環として位置づけられようとしています。
地域社会が安全かつ持続可能なまちづくりを進めるための方策が検討されているわけですが、所有者が不明な土地などは、計画の妨げとなることでしょう。
国の調査によれば、相続登記がされていない土地は、現時点で九州本島の面積を超えており、人口減少により、ますます増えていくといわれています。つまり、所有者が明らかになっていないため、公共事業、農地の集積・集約化、復旧・復興事業、民間取引などの土地利用が阻害されている状態です。
このような事態を打開すべく、不動産の所有者が誰なのかが不動産登記簿からすぐ分かるように、相続登記の申請が義務となったのです。そして、この相続登記義務化は、空き家問題への解決へとつながるのです。
持続可能な社会に向けて
相続登記の義務化により空き家の所有者がはっきりすることで、空き家の管理責任の所在も明確になります。空き家を相続する予定のある方や既に相続した方は、相続登記の手続きと並行して、管理責任のある空き家を今後どうするかについても話し合い、検討することが大切です。
• 空き家をこれから相続する人も、既に相続を受けた人も、相続登記の手続きを進める必要がある
• 相続登記の義務化によって、空き家の所有者が明確になり、管理責任を問われるようになる
より住みやすい、安心安全な未来の地域社会に向けて、私たちが今からできることに取り組んでいきたいものです。