特定調停は調停委員のもとでの話し合い
特定調停とは、債務の弁済ができなくなるおそれのある債務者の経済的更生を図るための調停手続です。裁判所の指定する調停委員のもとで、債権者と債務者が話し合いをし、債務の削減、分割払い等について合意ができれば、調書に記載されます。
手法としては、まず利息制限法による引き直し計算をし、超過部分を元本に充当し、残高を確認した上で分割弁済の合意をします。任意整理とほぼ同様ですが、過払金の請求は調停の中では行わず、別途過払金返還訴訟を提訴する必要があります。
任意整理と比較した場合、次のようなメリットが挙げられます。
- 申立てをすることにより、債権者による取立請求が制限される
- 期日管理と資料管理を裁判所が行う
- 調停委員から債権者に対して取引開示請求が行われる
- 利息制限法に基づく引直しを調停委員が行う
- 調停前の保全措置が受けられる
- 民事執行停止の申立てが受けられる
- 債権者が取引開示に応じない場合文書提出命令を発令できる
このように、当事者間の話し合いに調停委員が入り裁判所が関与することによって、一定の強制力のある措置が可能となります。
それに対して、次のような点がデメリットとなります。
- 過払金の返還を調停で成立させることは難しい
- 調停調書は債務名義となるため、遅行遅滞に陥った場合直ちに強制執行されるおそれがある
- 調停成立まで最低2ヶ月はかかる
- 調停成立までの遅延損害金が加算される
民事再生、破産より柔軟性がある
民事再生、破産と比較すると次のようなメリットがあります。
- 債権者が複数いる場合、ある特定の債権者のみを相手方とすることができる
- 信用情報への影響が小さい
- 破産や、倒産に関する情報は、JICCやCICへ登録されます。特定調停においては、JICCへの登録が3年間なされずに済み、CICへの登録はなされません。
- 自分で安価でできる
- 専門家に依頼をすると費用がかかりますが、特定調停は自身で行うことができます。
民事再生は任意整理・特定調停と破産の中間的手続き
任意整理、特定調停が分割弁済により債務の完済をゴールとするのに対し、支払不能となるおそれのある場合には民事再生、支払不能であれば破産を選択することになります。
民事再生とは、債務全部を支払うことは困難であるけれども、破産を回避したい事情がある場合に向いています。
一番の特徴は住宅ローンの支払いを続けながら、他の債権のカットが可能となる点です。また、本人の収入を原資とするため、定期収入がないと開始要件を満たしません。具体的に要件をみていきます。
- 継続的な収入があること
- 総債務額が5000万円以下の個人債務者
- 相当部分を免除し、残った債務を原則3年間で分割弁済すること
給与所得者等再生であれば、可処分所得により弁済総額、再生計画は機械的に算出されます。再生計画が認可されるための最低弁済額も定められています。
住宅ローン特例により自宅を守ることができる
破産と比較しながらメリットをみていきます。
自己破産をする場合、通常、申立て時点で保有している財産を現金に換えて、債権者に分配し、残りの借金については、返済を免除することになります。
民事再生の場合には、個別の財産を現金に換えるわけではなく、財産は残しておいて、現金で分割返済することになります。自己破産とは異なり、財産を残しておくことが可能となる点が大きなメリットです。住宅ローンが残っている方が、住宅ローンは従前どおり支払いを継続しながら、その居住している住宅を残した状態で、住宅ローン以外の借金を減額することができるのです。
自己破産には資格制限がありますので、従事している仕事によっては、資格制限を受けることがあるのに対し、民事再生はそのような資格制限はありません。
破産とは借金も財産も総清算する
最後に破産についてみていきます。
自己破産とは、裁判所に破産申立をして、免責許可決定を受けることで、原則としてすべての借金の支払義務を免除してもらう手続きです。支払不能の状態となり、借金の返済が不可能になった場合に、債務者の財産を債権者に対して適正・公平に清算するとともに、免責を得ることで債務者の経済的再生を図るものです。
破産することによりどのような影響が生じるのか、を挙げてみます。
- 賃貸借契約は解除されない
- アパートを借りている場合、破産しても貸主から解約申入れをすることはできません。
- 持ち家の場合は処分せざるを得ない
- 資格制限がある
- 弁護士、司法書士、税理士などの資格を失ったり、会社の役員の資格を失います。また、保険外交員など一定の資格のもとで行う業務については業務を制限されることがあります。
- 管財事件になると、転居や旅行について裁判所の許可が必要になる
- 保証人へは何の影響も及ぼさない
- つまり、債権者は保証人への保証債務の追及をすることができます。任意整理などであれば主債務とともに保証債務も縮減しますが、破産の場合、多くは破産手続開始の申立てとともに保証債務が現実化します。
大半は同時廃止、それ以外は管財事件となる
「破産財団をもって破産手続の費用を支弁するのに不足すると認めるとき」は、破産手続開始と同時に手続きを終了することになります。これを同時廃止といいます。個人の方が自己破産をする場合、同時廃止となるのが一般的です。
それ以外の場合には破産管財人が選任され、管財事件となります。債務者の財産を換価して、債権者に公平に配当する手続きが行われます。
上記2つを分けるのは、財産額の違いです。財産額が20万円未満であれば同時廃止、20万円以上であれば管財事件となります。
一口に債務整理といっても、このようにさまざまな手法があります。どの手法を選択するかは、債務者の収支の状況、返済の状況などにより多角的な視点から判断していくことになります。