では、クーリング・オフが適用外だった場合、どのように対処することが考えられるでしょうか。
原則としては、こちらにまとめた制度に基づいて、取消し、無効、解除などを主張していくことになります。
その他にも各種法規制がありますので、各論的に挙げていくことにします。
取引全般に共通する禁止事項
特定商取引に関する法律は、次のような不当な行為を禁止しています。
- 契約の締結について勧誘を行う際、又は契約の申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、事実と違うことを告げること
- 契約の締結について勧誘を行う際、故意に事実を告げないこと
- 契約を締結させ、又は契約の申込みの撤回(契約の解除)を妨げるために、相手を威迫して困惑させること
- 契約の対象となる物品の引渡しを受けるため、引渡し時期その他物品の引渡しに関する重要な事項について、故意に事実を告げない、事実と違うことを告げる、又は相手を威迫して困惑させること
例えば、「解約できるが多額の違約金がかかる」「一度使ったものはクーリング・オフできない」などと不実の事実を告げた場合には、契約の取消しができるだけではなく、事業者に対しての業務改善の指示や業務停止命令・業務禁止命令の行政処分の対象となるほか、一部は罰則の対象にもなります。
特定継続的労務提供契約における中途解約権
エステや語学学校など、継続して通う必要のある契約については、クーリング・オフ期間経過後であっても、契約期間内に解除することができます。
特定商取引に関する法律には、中途解約における損害賠償額について上限が定められています。約款で損害賠償額の予定または違約金の定めがある場合にも、事業者がこれ以上請求してはいけないという額が決められているのです。
エステティック | 2万円又は契約残額の10%に相当する額のいずれか低い額 |
美容医療 | 5万円又は契約残額の20%に相当する額のいずれか低い額 |
語学教室 | 5万円又は契約残額の20%に相当する額のいずれか低い額 |
家庭教師 | 5万円又は当該特定継続的役務提供契約における1か月分の授業料相当額のいずれか低い額 |
学習塾 | 2万円又は当該特定継続的役務提供契約における1か月分の授業料相当額のいずれか低い額 |
パソコン教室 | 5万円又は契約残額の20%に相当する額のいずれか低い額 |
結婚相手紹介サービス | 2万円又は契約残額の20%に相当する額のいずれか低い額 |
中途解約したのにも関わらず、返金が一切なされない、などということは違法になります。
消耗品のクーリング・オフの場合
消耗品を買わされて使ってしまったがクーリング・オフしたい、という場合はどうなるのでしょうか。
政令が指定した消耗品である場合、使った部分に関してはクーリング・オフができないことになっています。*政令指定消耗品とは、化粧品(歯ブラシやせっけんなど)・健康食品(医薬品を除く)・不織布や織物・生理用品やコンドーム・防虫剤(殺虫剤や防臭剤など)・履物・壁紙・配置薬のこと。
事業者は予め、消耗品を使用・消費してしまったときにはクーリング・オフできないことを告知しなければならないことになっています。契約書面にも記載がなく、説明もなかった場合には、使用・消費したとしてもクーリング・オフが可能です。
さらに、開封したのが自分の意思でなく、販売員だったとすると、すべてについてクーリング・オフできます。使ったものでもそのまま返せばよいのです。
高齢者が狙われやすい過量販売
販売者の長年の顧客であった人を断り切れない状態に追い込んで、次から次へといくつもの契約をさせてしまう販売形態を「次々販売」といいます。
判断能力の不足に乗じているのであれば、取引上の信義則に反しますので、無効を主張することが考えられます。
また、相手方の無思慮・窮迫につけ込んで不当な利益を得るような取引や、他人に著しい損害を与えるような取引は公序良俗違反になります。特に、他人の生存の基礎である財産を失わせるような行為は、自由競争の行き過ぎで公序良俗に反するという最高裁判決があります。
インターネット取引をめぐるトラブル
インターネット通販やテレビショッピングなどの通信販売には、法律上のクーリング・オフ制度はありません。返品の可否や条件についての特約があれば、それに従うことになります。
では、注文する意思がないのに送信ボタンを押してしまった場合、請求に応じるしかないのでしょうか。
通信販売も特定商取引に関する法律の規制の対象となります。
事業者が定める様式等(申込書面や最終確認画面)に基づいて申込みの意思表示が行われる場合には、その申込み段階において、一定の事項を表示しなければならないほか、そこで誤認させるような表示を行うことも禁止されており、違反した場合には行政処分や罰則の対象となります。
また、インターネットで行う通信販売の場合には、最終確認画面において、顧客が申込みの内容を容易に確認し及び訂正することができるようにしていない場合には、顧客の意に反して契約の申込みをさせようとする行為として、行政処分の対象となります。
つまり、画面上に確認画面が出ていなかったり取消しボタンが見当たらなかった場合、その旨を事業者に伝え(画面をスクリーンショットをプリントし提出するのも有効)、商品を返送します。
それから交渉することになりますが、交渉がまとまらなかった場合には消費者生活相談窓口や(社)日本通信事業協会に相談してみるのもひとつです。
ネガティブオプションとは
ネガティブオプションとは、商品を購入していないにもかかわらず、販売業者が一方的に商品を消費者に送りつけて、代金を請求するという販売の手法で、送り付け商法や押しつけ商法とも呼ばれます。
商品を受け取ってしまった、箱を開けてしまった、だから支払わなければならない、という消費者の心理を利用して代金を支払わせようとするもので、その悪質性から特定商取引法という法律の規制対象になっています。
ネガティブオプションの商品が送付されたとしても、一方的に送り付けてきた商品に代金を支払う義務はありません。
注意すべきは保管期間です。商品の送付があった日から14日は販売業者に商品の所有権があります。したがって、この14日間の間に「商品の送付を受けた者がその申込みにつき承諾をせず、かつ、販売業者がその商品の引取りをしないときは、その送付した商品の返還を請求することができない」と定められています。
14日間が経過すれば、消費者は商品の代金を支払う必要もなく、返品する必要もありません。また、必ずしも商品を捨てる必要はなく、消費することもできます。
商品の引き取りを業者に請求をすると、商品を保管しなければならない期間が7日間に短縮されます。
受取拒否も方法の一つです。商品が郵便で送られてきた場合、注文した覚えがなければ配達員に「受取拒否です、返送してください」と伝えると、商品を配送元へ返送してもらえます。