さて、法定後見制度とはどのような手続きになるのでしょうか。具体的にみていきましょう。
申立てから後見開始までは約2ヶ月
専門家に相談し、申立ての準備が整ったとして、どのくらいで後見が開始されるのでしょうか。大まかな流れは次のような手続きとなります。
- 申立人・申立先の確認を行う
- 診断書を取得する
- 必要書類を収集する
- 申立書類を作成する
- 面接日の予約を行う
- 家庭裁判所に申立てを行う
- 審理開始する
- 審判を行う
申立てから法定後見の開始までの期間は、2ヶ月以内であることが多いようです。上記8.の審判手続には予備審判→調査官調査→親族照会→鑑定という流れが含まれるのですが、実際のところ鑑定を行う確率はかなり低く、令和元年で約7.0%とのことです。鑑定まで含めると後見開始までに4ヶ月ほどの期間を要するようですので注意が必要です。
気になる費用は・・報酬含め15〜40万円
(1)申立手数料の収入印紙 1件あたり800円
後見開始、保佐開始=800円
保佐(補助)開始+代理権付与=1600円
保佐(補助)開始+同意権付与=1600円
補助開始+代理権付与+同意権付与=2400円
(2)後見登記手数料の収入印紙 2600円分(申立書に貼らないでください)
(3)郵便切手
(4)鑑定費用 10万円~20万円程度
(5)医師の診断書の作成費用
(6)住民票、戸籍謄本発行費用
(7)登記されていないことの証明書の発行手数料(収入印紙300円分)
司法書士に成年後見申立ての手続きの代行を依頼すると10万円前後、弁護士の場合は20万円前後の費用がかかります。注意すべきは、後見開始後そのまま司法書士に成年後見人になってもらった場合、本人の財産額や業務に応じ、毎月2万円程度かかることになります。これは、家庭裁判所が定めた報酬額のめやすに基づいています。
申立人に経済的余裕がない場合、申立書類の作成や申立手続を弁護士や司法書士に依頼する場合、資力等の一定の要件を満たせば、法テラスの民事法律扶助制度を利用できる場合があります。
また、生活保護の受給者や資力等の一定の要件を満たす方は、各自治体で設けられている申立費用や後見報酬の助成制度(成年後見制度利用支援事業)が利用できる場合もあります。
後見には3類型があることを理解しよう
ところで、後見には、法定後見制度の「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。これは、判断能力の程度に応じて、最も重い類型から順に分類されています。
【法定後見の3つの類型】
- 後見:最も重い類型で、判断能力がほとんど失われた人に適用されます。成年後見人が成年被後見人を保護し、財産を管理したり、契約等を本人に代わって行ったりします。
- 保佐:中間の類型で、判断能力が相当程度低下した人に適用されます。保佐人が被保佐人を保護し、重要な法律行為を法的に支援します。
- 補助:最も軽い類型で、判断能力がある程度低下した人に適用されます。補助人が被補助人を支援し、本人が一人で行うのは難しい事柄について、必要な範囲で個別に権限を付与します。
3類型の区別の目安になるのが長谷川式認知症スケール(HDS-R)です。長谷川式認知症スケール(HDS-R)は、30点満点で構成されていて、20点以下だと認知症の疑いが高いと判定されます。10点以下で成年後見、11〜15点で保佐、16〜19点で補助程度であると大別されているようです。判定結果は判断材料の一つにはなりますが、それだけで方針を決定するわけではなく、親族・関係者から聴き取った事情、本人の面談時の受け応えなど総合的に判断します。
3類型の大きな違いは、後見人の権限の範囲にあります。
後見は、原則としてすべての法律行為について後見人が同意権、取消権、代理権を有します。保佐は、借金、相続の承認など、民法13条1項記載の行為のほか、申立てにより裁判所が定める行為について保佐人が同意権、取消権を持ち、申立てにより裁判所が定める行為につき代理権を有します。補助については、原則として本人が法律行為を行うことができます。ただし、申立てにより裁判所が定める行為について補助人に同意権、取消権、代理権を与えることができる、という制度の違いがあります。
他の自治体のサービスも検討する
後見制度だけでは解決できないことも多く存在します。例えば、後見人は本人の介護や家事等を直接行うわけにはいきません。日常生活上の介護や家事の援助に急を要する場合、介護保険サービスや障害福祉サービスをまずは利用し、本人の満足度を検討することも必要です。
また、本人の支援者である地域の民生委員、ケアマネージャー、近隣の住民の協力を仰ぎ、地域で見守ってもらいながら安心して暮らしてもらうことも大切です。
そのほかにも、各自治体が実施している他の制度を利用検討してみてもいいでしょう。
【日常生活自立支援事業】
日常生活自立支援事業とは、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち判断能力が不十分な方が地域において自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助等を行うものです。3類型の補助程度であれば、この制度を利用できると思われます。
対象者は次のとおりです。
- 判断能力が不十分な方(認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等であって、日常生活を営むのに必要なサービスを利用するための情報の入手、理解、判断、意思表示を本人のみでは適切に行うことが困難な方)
- 本事業の契約の内容について判断し得る能力を有していると認められる方
支援の内容は下記のようなものになります。
- 福祉サービスの利用援助
- 苦情解決制度の利用援助
- 住宅改造、居住家屋の貸借、日常生活上の消費契約及び住民票の届出等の行政手続に関する援助等
- 預金の払い戻し、預金の解約、預金の預け入れの手続等利用者の日常生活費の管理(日常的金銭管理)
- 定期的な訪問による生活変化の察知
ご家族に認知症の気配があらわれたとき、将来の不安をひとりで抱え込まずに、色々な方法、手段があることを知っておきたいですね。