こんにちは。昨日はとうとう東京でも気温40度・・会社にたどり着くだけで精一杯です;;
夏休みを控え、お客さまの出足もやや鈍り気味。司法書士業務も比較的余裕がある時期になります。堅苦しい話はひと休みすることとして、気軽な内容を書こうと思います。
決済業務は司法書士にとって大きな柱のひとつ
いわゆる「決済」とは、不動産売買の最終手続きです。買主から売主へ売却代金が支払われ、不動産の引き渡しが完了する重要な手続きです。
不動産の売買契約が成立すると、お取引きのある不動産仲介会社やハウスメーカー、銀行などの金融機関から決済の依頼が入ります。
売買契約の内容、ローンを利用する場合には金銭消費貸借契約、抵当権設定契約の内容を確認し、登記の準備をします。お客さま向けには登記費用を算出し、住民票や印鑑証明書などの必要書類の案内をします。
大手事務所ですと月に数十件〜数百件にも及ぶとか。都内のマンション一棟買いなど大型案件が入れば、一度に500戸の登記申請をするなんてことも度々あるようです。申請書類の準備で深夜2時まで残業した、という話を同期から聞きました。オンライン申請でも間に合わず、スーツケースに書類を詰めて、法務局へ持ち込んだそうです。
私の勤める事務所は月に10件〜20件くらいですので、信じられない激務を想像しますが、それだけさまざまな経験を早く積めるということでしょうね。
不動産会社の事務処理の都合と、買主の住宅ローン手続きの都合により、月末に集中することが多いです。1日に3件くらい重なることが多いので、決済をハシゴしたり分担したりしてこなしています。
「地面師たち」のあの場面
決済業務をこなすことは司法書士にとってのファーストステップですから、新人研修の段階で手厚い研修が用意されています。ビデオを見たり、実際に役割を決めてロールプレイングしたりしながら何度もシミュレーションします。
最近はNetflixの「地面師たち」が話題になっていますが、ドラマの中で詐欺グループとハウスメーカーが対峙するまさにあの場面です。
実在した事件を元にした「地面師たち」がちょっとしたトラウマになっており、本人確認には気を遣います。特に売主が高齢者で大きな土地を所有している方の場合には、より注意を払って意思確認をします。
免許証にライトを当てて確認したり(ICチップの確認)、コンビニで取得した住民票のバーコードリーダーを用意したという同期もいて、見習わなければいけないと思いました。
買主側が詐欺をする、ということはあまり考えられないですが、今は犯罪による収益の移転防止に関する法律(犯収法)という別の観点から厳格な本人確認が求められています。
犯収法とは、マネー・ローンダリングやテロ資金供与防止を目的として、特定の事業者が取引する際の本人確認等について定められている法律です。特定の事業者として司法書士も対象となっています。
これにより、買主の職業、取引目的を確認しなければならないこととなりました。決済の場で確認することが増えてしまっていますが、このような背景をご理解いただけると有り難いです。なお、2027年4月1日、犯収法施行規則が改正・施行される予定で、本人確認書類の取り扱いがより厳格になります。
ネット銀行利用やインターネットバンキングで圧倒的に時間短縮
ところで、私自身偶然にも、昔から不動産決済業務と関わりのある職種を経験してきました。
信託銀行では住宅ローン担当として決済時の振込み手続きをするために、払出し伝票と振込み伝票を持って預金窓口へ行内を走っていましたし、不動産会社では残金決済の計算をし、決済の場をセッティングしていました。
売主の立場にはまだなったことはありませんが、買主の立場にはなりました。
決済の登場人物は、売主・買主・不動産会社・銀行・司法書士の5者ですが、そのうち4者を経験したわけです。(これはなかなか珍しいことと自負しています)
昔は13時までには振込みに持ち込まなくてはいけなくて、振り込みが完了するまで2時間くらいは当たり前でした。今やネット銀行やインターネットバンキングを利用することで、手続きはどんどんスマートに短縮され、先日の決済では開始後20分で売主の着金確認までできたのには驚きでした。
さらに、キャッシュレス決済システムを導入している不動産仲介会社、銀行などの場合には当事者が立ち会わずとも決済を行う「キャッシュレス決済」なるものが増えてきました。決済は必ず銀行の融資や振込みが関わるので、平日でないと行えません。買主が個人の場合、仕事を休まなければならないことになりますが、キャッシュレス決済であればその必要がなくなるので、大きなメリットといえます。ただし、事前に司法書士による売主・買主の本人確認は当然行います。
決済はなぜ司法書士が仕切るのか
最後に、決済の流れを説明します。
- 司法書士による本人確認・登記必要書類の確認
- 司法書士による融資実行指示
- 売主からの物件説明、鍵引渡し
- 残金支払い、各所振込み確認
- 決済後、登記申請
決済の‘肝’である金融機関への融資実行の指示は、必ず司法書士が行います。なぜでしょうか。
ヒントは民法の規定にあります。
【民法533条】双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
つまり、不動産売買契約においては,売主側は,不動産の引渡し及び所有権移転登記手続必要書類交付の義務を負い,買主側は,売買代金の支払義務を負いますが,両者は,同時に履行するものとされています(契約書上は,「売主は,買主に対し,本件不動産を,売買代金全額の受領と同時に引渡す」等と規定されます)。
しかし、相手が義務を履行するまでは自分は義務を履行しません、となってしまってはいつまでも手続きが進みません。
そこで、司法書士が登場するわけです。
売主さんの意思と登記に必要な書類を確認し、間違いなく登記できるという状態を作った上で、買主さんどうぞ安心して代金をお支払いください、という指示を出せるのは司法書士だけなのです。
責任重大です。ミスをするわけにはいきません。なのでいつも緊張感を持って臨みます。電車の遅延や自然災害があっても決済は行われます。開始30分前には着くようにしている、という同期を見習って、なるべく早く到着するようにしています。(45分前に着いたときはさすがに手持ち無沙汰でした)
とはいえ、私にとっては楽しいひとときでもあります。
振込みを待つ時間が割と長いので、なるべく場を和ませる会話をします。買主さんにとってはこれからワクワクな新生活が待っているのですから。インテリアの話、趣味の話、近隣のお店の話、などなど。あらかじめ、物件情報を見ておいてネタを仕込んだりします。皆、口を揃えて言うことですが、司法書士は間をつなぐトーク力も必要です笑
普段は相続のご相談などご年配のお話を聞くことが多いので、たまの決済はまた違った楽しみでもあります。