さて、手元に戸籍が揃ったとして、それらが繋がっているかどうかをチェックする必要があります。
私が勤務を始めて、最初にぶつかったのがこの壁です。なかなか戸籍を読むことができなくて、何度も先輩方に教わりながら学んでいきました。一人で読めるようになるまで、2ヶ月くらいかかりました。資格の勉強では教わりませんからね。実践あるのみ、なのです。
戸籍を読むのにはコツがあります。あとは、何通もの戸籍を読み続けることで不思議と慣れてきます。どうしても分からない場合は、役所の方が親切に教えてくださるようです。
ご自身で戸籍を読もうとチャレンジされる方のために、いくつかのポイントを挙げてみたいと思います。
最新の戸籍から遡る
まず、現在の本籍地を知るところから始めます。本籍地は、住民票に記載されます。ですので、住民票を取得するときは記載事項欄の「本籍地」にチェックをする必要があります。これを忘れると、再度住民票を取得しなければなりません。その場で気付けば差し替えてくださいますので、取得したら必ずチェックしましょう。役所も不必要な個人情報は記載しない方向になっていますので、チェックの入っていない事項は基本的に記載されません。(私も一度、痛い目に遭いましたのでをお気をつけください・・)
本籍地が分かったら、その地番の戸籍からスタートして過去に遡っていくわけですが、それぞれの戸籍の「始まり」と「終わり」を調べます。
戸籍の始まり〜新戸籍の編製〜
戸籍の始まりの日は【編製日】または【改製日】です。新戸籍の編製には以下のような主な理由があります。
日本人同士が婚姻した場合
戸籍制度には「三代戸籍禁止の原則」というものがあり「親・子」の二代までという原則が民法によって定められています。つまり、結婚などで新しい家族ができるたびに、新しい戸籍が増えてゆくということになるわけです。
日本人同士が婚姻する場合、夫および妻は、どちらか一方の氏を選択して同じ氏を名乗り、新たに二人の戸籍ができます。氏に変更がなかった方が筆頭者となります。例えば、夫の氏を選択した場合は、新たに夫を筆頭者とし、妻を配偶者とした戸籍ができます。また、妻の氏を選択した場合は、新たに妻を筆頭者とし、夫を配偶者とした戸籍ができます。
ただし、すでに夫または妻を筆頭者とする戸籍があり、その筆頭者の氏を選択したときは、もう一方のかたはその戸籍に記載されます。例えば、すでに夫を筆頭者とした戸籍があり、夫の氏を選択した場合は、新たに戸籍はできず、夫の戸籍に妻が配偶者として記載されます。
日本人と外国人が婚姻した場合
日本人が外国人と婚姻をした場合には、外国人についての戸籍は作られませんが、配偶者である日本人の戸籍に、その外国人(氏名・生年月日・国籍)と婚姻した事実が記載されます。この場合、その日本人が戸籍の筆頭に記載された者でないときは、その者につき新戸籍が編製されます。
未婚の女性が子を産んだ場合
「三代戸籍禁止の原則」により、筆頭者及びその配偶者から見て三代目にあたる子の子(子の養子を含む)については、同じ戸籍に入ることはできません。子にあたる方が婚姻をすることなく子(つまり筆頭者及びその配偶者から見て子の子)を出生した場合は、子を筆頭者とした新たな戸籍を編製し、子の子はその新しい戸籍に入籍することになります。
転籍した場合
戸籍謄本に記載されている者すべてが、現在の本籍地から他の市区町村に移った際に新しい戸籍を編製し、以前の戸籍は除籍というかたちで保存されます。戸籍謄本に記載されている者の一部が転籍せずに元の戸籍に残る場合には、除籍にはなりません。
分籍した場合
読んで字のごとく戸籍を分けることをいい、分籍届けを出した届出人本人を筆頭者とする新たな戸籍が編製されます。たとえば、子どもが親の戸籍から出たい事情がある場合などです。分籍しても、親兄弟や祖父母などとの親族関係は変わりません。また、法律上親子であることには変わりがないため、相続人から外れることはありません。
本籍地を自由に決めることができる
分籍届をする際、分籍後の本籍地は自由に決めることができます。
そのため分籍後の本籍地を最寄りの役所にすることで戸籍謄本の請求などがしやすくなります。
親と違う苗字を名乗る事ができる
離婚や家庭裁判所の手続きにより筆頭者が苗字を変更すると、戸籍にいる全員の苗字も変更後の筆頭者の苗字となります。そのため分籍をすることで親の離婚後、親のみ旧姓に戻り、子供は結婚時の苗字を名乗り続けることなどができます。
分家した場合
これは、現代では行われていない旧民法の家制度の下で行われていたものです。上で述べた分籍とは異なります。
一家の主人である戸主の嫡男(最初の男子)家系によって継承されるのが「本家」であり、次男以下や2番目以下の子が、戸主の同意を得て新たな家を設立して戸籍を継承することをいいます。
家督相続した場合
これも旧民法の制度なので、現在は廃止された相続形態です。戸主のすべての財産と権限である家督を長男のみが相続し、同じ本籍で新たな戸籍をつくるというものです。分家と同じように、新たな戸籍の作成原因となりますが、分家と異なるのは、戸主の死亡など、以前の戸主の地位喪失を原因としている点です。「A死亡によりB家督相続」「A隠居によりB家督相続」との記載を多く目にします。
家督相続とは、明治31年から昭和22年まで施行されていた旧民法に基づく遺産相続の方法で、戸主(家長)が隠居や死亡した際に長男がすべての財産や権利を相続する制度です。
明治〜大正あたりに出生された方の戸籍を追っていくと、必ずと言っていいほど家督相続により戸籍が始まっているので、はるか遠い昔の制度ではないことを実感します。
なお、現行民法下では相続により戸籍が始まることはありません。
戸籍の始まり〜戸籍の改製〜
戸籍の改製とは、国民側の事情ではなく、法改正やシステム変更などに伴って記載内容や表記が変わることです。法律の改正や戸籍の様式や編製基準の変更などに伴い、戸籍を新しい様式や編製基準に書き換えられてきました。
現在取得できる最も古い戸籍は1886年前後のもので、明治4年(1871年)に制定された戸籍法に基づいて作成された「壬申戸籍」です。実際に実施されたのが明治5年からなので、「明治5年式戸籍」と呼ばれています。
社会の変遷や時代が求める要請により、戸籍の様式等が変更されてきました。それに伴い、現在までに戸籍の改製が戦前に4回・戦後に2回行われています。その改製前の戸籍のことを改製原戸籍といいます。したがって、現在、改製原戸籍は6種類あります。
これらは、改製された年にちなんで、戦前の戸籍をそれぞれ「明治5年式戸籍」「明治19年式戸籍」「明治31年式戸籍」「大正4年式戸籍」といいます。また、戦後の昭和23年以降の戸籍を「現行戸籍」、平成6年の改製後の戸籍を「コンピューター化された戸籍」といいます。
戸籍の保存期間の関係から、現在、入手可能な戸籍で最も古いものは「明治19年式戸籍」です。
明治19年式戸籍
明治19年(1886年)には、統一書式を用いた戸籍に改製されました。地番や除籍制度が採用されたのが特徴です。
- 家の単位に戸主を中心として、直系・傍系の親族を一つの親族として記載している
- 孫やひ孫、兄弟の妻や甥姪、その子など、多くの人が同じ戸籍の中に記載されている
- 出生・死亡・結婚・離婚・養子縁組などの事柄を主に記載している
- 変体仮名や旧字体の数字が多く、手書きのためほとんど解読不明な場合もある
一つの戸籍に数十人記載されていることもあります。戸主との関係や、誰と誰の子どもなのかを注意深く読む必要があります。
明治31年式戸籍
新たに「戸主ト為リタル原因及ヒ年月日」という欄が追加され、「いつ」「どのような理由で」戸主になったかということが明確に記載されるようになりました。
それまでの戸籍は徴税や兵役などといったことに目的があったと言えますが、明治31年の戸籍法改正では、戸籍の目的を「身分の公証」としました。そのため、明治19年式の様式と比較すると、父母の氏名や続柄、出生欄なども明確になりました。
大正4年式戸籍
記載された家族について個別に「両親」「生年月日」「家族の中で占める位置(二男の嫁など)」などが記載されるようになりました。また、戸籍作成時にそれまであった戸籍の記載事項をすべて記載していたため、編製事由(当該戸籍の期間を示す記載。「〇年〇月〇日〇〇改製」等と記載)が複数ある場合があります。編製事由が複数記載されていた場合は、最も現在に近いものが、当該戸籍のは始まりとなります。
また、これまでは戸籍吏及び戸籍役場が戸籍を管理していましたが、大正4年の戸籍法改正によって市町村役場が戸籍事務を執り行うこととなりました。
明治31年式戸籍にあった「戸主ト為リタル原因及ヒ年月日」の欄が廃止され、その事項は戸主の事項欄に記載されるようになりました。
昭和23年式戸籍
それまでの戸主を中心とした戸籍から、夫婦とその未婚の子どもを単位とした戸籍に書き換えました。
この書き換える前の戸籍を「昭和改製原戸籍」といいます。
「戸主」が「筆頭者」に変わり、「華族」「平民」などの身分呼称もなくなりました。実際に昭和23年式戸籍に変わるのは昭和32年から昭和40年くらいの間です。コンピュータ化前の書式となっているため縦書きとなっており、数字が「壱」「弐」「参」「拾」といった漢数字となっています。
平成6年式戸籍
この改製から戸籍事務のコンピュータ化が始まりました。それまで手書きが主だった戸籍の処理をコンピュータ管理するようになったのです。これまでの縦書きだったものがA4版横書きとなり、現在私たちが利用する様式になりました。
戸籍事項欄に「改製日」と「改製事由」が記載されるので、「いつ」「なぜ」この戸籍が作られたのかということが非常に分かりやすくなりました。また、この改製によって「戸籍謄本」⇒戸籍全部事項証明、「戸籍抄本」⇒戸籍個人事項証明、「除籍謄本」⇒除かれた戸籍の全部事項証明、「除籍抄本」⇒除かれた戸籍の個人事項証明と、それぞれ名称が変更されました。
戸籍の終わり
戸籍が除籍される主な原因は、婚姻、養子縁組、死亡、転籍、 家督相続などです。つまり、新たな戸籍が編製される場合、元の戸籍からは抜けることになり、このことを除籍といいます。
そして、戸籍に記載されている人が全員除籍になると、その戸籍は「除籍」という戸籍になります。昭和までの戸籍の場合、除籍された者の名前は、戸籍に記載されている名前に×印が大きくつけられます。コンピュータ化された戸籍であれば、四角で囲われた「除籍」マークがつけられます。出生〜死亡までの戸籍を収集するならば、最後の戸籍は必ず除籍の記載がされていることになります。
戸籍を収集する目的
このように、戸籍の様式自体も変遷を辿っているため、明治生まれの方の戸籍を出生〜死亡まで追っていくとしたら、少なくとも4種類の戸籍を収集しなければならないことになります。結婚や引っ越しなどをされている場合には、新戸籍や転籍先の戸籍も追っていく必要がありますから、全部で5〜6通になることは決して珍しくないのです。
こうして苦労して集めた戸籍ですが、すべての繋がりが読めたとして、ここで満足してはいけません。本来の目的は、「相続人を確定させること」なのです。
つまり、何回か結婚を繰り返している場合であれば、元の配偶者との間に子どもがいないか、結婚はしていなくとも認知した子どもはいないか、養子縁組している子どもはいないかなど、注意深く読み解く必要があります。
ここで判断を誤ると、いるべき相続人がいない状態で行った遺産分割協議も無効になりますし、相続登記も申請が通らないことになります。
このように、相続手続きにおいて正しく戸籍を読み解くことは、とても重要な作業なのです。