お久しぶりのブログになってしまいました。
自治体の無料相談会の後、事務所主催の相談会、期せずしてやってきた司法書士会による相続の電話相談と、何度か相談業務の経験を積んだことで少しだけ心に余裕ができました。
毎週末は何かしら知識の詰め込みをしていたのですが、最近はついつい楽しいガーデニングばかりに時間を費やしてしまい、おかげさまで随分と庭がすっきりしました^ ^
さて、今回は遺留分をテーマに取り上げます。
相談業務のうちの8割は相続、遺言についてのご相談なのですが、そのうちのかなり多くの事例について,遺留分が問題になるケースでした。
ですが、ご相談に来られる方はほとんどの方が、遺留分という言葉の定義すらご存知ありません。受験知識としても登記に関わるところではないので、民法の中でもどちらかといえばマイナー分野です。
将来、身近なご家族に相続が発生したとして、財産の相続をするつもりがないとしても、遺留分は知っておくべきです。
遺留分とは民法が定めた最低限の権利
遺留分とは、被相続人が持っていた財産のうち、一定の法定相続人に保証された最低限の取り分のことです。
被相続人には、生前に財産処分や遺言を行う自由があります。自分の財産のうち、どの財産を誰に与えるかを自分の意思で決められるという原則がありますが、この原則を貫いてしまうと、配偶者や子といった遺族の生活が保障できないなどの問題も生じます。
このような問題が起こるのを防ぐため、民法では、遺留分という制度を設け、被相続人の処分の自由を一定程度制限しています。被相続人による生前の贈与や遺贈により自己の遺留分を侵害された遺留分権利者は、贈与や遺贈を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができます。これを、「遺留分侵害額請求」といいます。
なお、2019年7月1日以前に開始した相続については、遺留分を侵害された遺留分権利者は「遺留分減殺額請求」をすることができます。これは、「遺留分侵害額請求」と趣旨は同じですが、遺留分が侵害された限度で贈与や遺贈の効果を覆す(贈与や遺贈された財産の全部又は一部の返還を請求することができる)ものであり、当然に金銭債権が生じるわけではない点で「遺留分侵害額請求」とは異なります。
遺留分権者と遺留分割合
遺留分権利者は、民法上、兄弟姉妹以外の相続人と定められています。
そして、遺留分の割合は次のように定められています。
民法第1042条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一
この条文がとても分かりにくいので具体的に説明します。
【相続人が配偶者と子ども2人の場合】
法定相続分は配偶者2/4、子が1/4ずつですね。それに遺留分割合を乗じます。この事例は前掲の条文中の2号にあたりますから、配偶者2/4×1/2=2/8、子1/4×1/2=1/8ずつとなります。すべての相続財産のうち、配偶者であれば2/8、子は1/8、に相当する額を金銭で請求する権利があるのです。請求の相手は遺留分を侵害した他の相続人や贈与を受けた者となります。
【相続人が父母のみの場合】
法定相続分は父・母ともに1/2ずつです。それに遺留分割合を乗じますので、1/2×1/3=1/6ずつとなります。すべての財産のうち、1/6相当額を金銭で支払うよう請求できます。
遺留分侵害額請求には期限がある
遺留分の基礎となる財産は、以下のとおりです(民法1043条、1044条)。
① 相続財産(被相続人が死亡時に有した財産から、債務を控除したもの)
② 遺贈(遺言による贈与)
③ 生前贈与のうち、(a)または(b)のいずれかに該当するもの
(a)相続開始前10年間に行われた、相続人に対する贈与(婚姻もしくは養子縁組のため、または生計の資本として受けたものに限る)
(b)相続開始前1年間に行われた、相続人以外の者に対する贈与
つまり、10年以上前の相続人への贈与や、1年以上前の相続人以外への贈与に対しては遺留分侵害請求ができません。
また、遺留分侵害額請求権は早ければ相続開始から1年という短期間で時効消滅しますので注意が必要です。
第1048条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。 相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。
遺言書を作成する場合には遺留分を考慮する
例えば、お世話になった相続人の1人に財産の多くを相続させたいときなど、遺言書を作る場合には遺留分の考慮が必要になります。
他の相続人の遺留分を侵害した場合、被相続人がお世話になった相続人こそが遺留分を請求される相手となり、かえって迷惑をかけてしまうことになりかねません。
そのような事態を避けるため、予め遺留分を考慮して遺言書を作成するのが一般的です。預貯金などの金融資産があれば、その中から遺留分相当額を他の相続人へ相続させます。
他の相続人が予め相続しない意思を明確にしている場合や、逆に他の相続人には一銭たりとも相続させたくないなどのケースでは、全財産を相続人の1人に相続させる旨の遺言も無効ではありません。しかし、遺留分侵害請求の可能性もゼロではありません。
このような場合に備えて、生命保険を利用するのが生前対策として有効です。
遺留分対策として生命保険を活用する
生命保険金は受取人固有の財産とみなされるため、遺産分割や遺留分の対象となる相続財産に含まれません。つまり、受取人を相続人の1人に指定しておけば生命保険金は相続の対象にはならず、生命保険金については遺留分侵害請求の心配もありません。(ただし、支払われた生命保険金の額が大きいため、生命保険金の受取人である相続人と他の相続人との間に著しい不平等が生じる場合は、生命保険金は遺留分の対象になります。)
そして、もし他の相続人から遺留分侵害請求をされた場合に、生命保険金から充当することができるのです。相続財産のほとんどが不動産の場合などは、有効な手段です。
また、生命保険の掛け金を支払うことで相続財産を減らせば、財産を与えたくない相続人の遺留分額を減らせる可能性があります。
ただし、受け取った生命保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象になりますので注意が必要です。