意外と便利な相続分の譲渡

ツナグ相続

やっと春めいた陽気な気候になりましたね。真冬の寒さに逆戻り・・なんていうワードはもう聞きたくないです。。

さて、少し専門的になりますが「相続分の譲渡」というものをご存知でしょうか。あまり聞きなれ慣れない用語ですが、ここ数ヶ月で2件ほど扱いました。どのような場面で登場することになったのか、ご説明していきます。

相続分の譲渡とは、自分の遺産全体の上に持つ包括的持分または相続人の地位を他の相続人や第三者に譲渡することです。相続分の譲渡は、有償(売買)または無償(贈与)のいずれかで行うことができます。譲受人は、遺産相続権を取得することになるため、遺産分割協議に参加する必要があります。

似たような概念の法律行為として、共有持分の譲渡、というものがあります。共有持分の譲渡は、被相続人の遺産に含まれる特定の不動産に対する共有持分権を譲り渡すものです。

分かりづらいですね・・適用場面から考えると理解しやすいので補足すると、遺産分割協議の前であれば相続分の譲渡、遺産分割協議の後であれば持分の譲渡、ということになります。

遺産分割協議をすれば相続分の譲渡など必要ないのではないか、と思われますよね。そのとおりです。がしかし、遺産分割協議というものはスムーズに行われるケースばかりではないのです。

遺産分割協議がうまくいかないときに利用する

具体的な事例を挙げてみます。

ケース1

約30年前に被相続人が亡くなり、地方の土地1筆の相続登記をしたいとの依頼を受け、戸籍を収集したところ相続人が十数名存在することが判明。相続人の中には数次相続により孫、曾孫もおり、相続人同士が顔も名前も知らない状態。相続人の一人が、手続きの内容がよくわからないという理由で遺産分割協議書への署名捺印に協力しなかった。そこで、相続分の譲渡へ切り替えた。

ケース2

被相続人が亡くなったが子どもがおらず、血縁関係のない義理の弟に面倒をみてもらっていたため、義理の弟に不動産を遺贈したいという意思を持っていた。生前、遺言書の作成を考えていたところ、容体が急変しそのまま亡くなってしまった。被相続人の意思を知っていた相続人らは、義理の弟への相続分の譲渡をした。

上記2つのケースにおいて、いずれも相続分の譲渡というかたちを取ることで解決を図りました。

相続分の譲渡によるメリットとしては、次のようなことが考えられます。

  • 遺産分割協議がスムーズに進みやすくなる
  • 譲渡したい人を選ぶことができる
  • 遺産分割協議の終了を待つことなく金銭を得られる可能性がある
  • 相続の手続きやトラブルから離脱できる

遺産分割協議とは、相続人全員が署名捺印しないと成立しません。捺印は必ず実印です。印鑑証明書の添付も必要になります。遺産分割により財産を相続しない相続人であっても、印鑑証明書の取得と書類への署名捺印、書類の送付など少々の手間が必要になります。すぐに対応していただけるならいいのですが、そのままの状態でしばらく放置されてしまうと、その間に相続人のどなたかが亡くなりさらに相続が発生する、ということも十分にあり得ます。そうなると、再度新たな相続人も交えて遺産分割協議のやり直し、ということになるわけです。

相続人は、多くが高齢者の方です。80歳、90歳の方も珍しくありません。判断能力が衰えてくる方もいらっしゃいますし、遠方で思うように身動きが取れない方もいらっしゃいます。遺産分割協議がスムーズにいかないことは容易に想像できます。

相続分の譲渡をしておくことで相続人の立場から外れ、遺産分割協議に参加する必要がなくなるわけです。遺産分割協議が長引くことや、話がスムーズにまとまらないことが予想される場合で、自身は相続する必要がない方は、検討されてみるといいかもしれません。

相続税、相続債務は免れない

一方で、デメリットもあります。

  • 相続分を譲渡したあとも債務の支払義務は残る
  • 遺言がある場合は相続分を譲渡できないケースがある
  • 税金がかかる場合がある可能性がある

相続分の譲渡の主なデメリットは、相続税や相続債務の負担から逃れることができないという点です。
相続分の譲渡によって、相続手続きから離脱したとしても、債権者との関係では、相続分の譲渡をしたことを理由として支払いを免れることはできません。

相続分の譲渡後、他の相続人がきちんと返済を続けていれば問題はありませんが、さまざま理由で返済が滞った場合には、譲渡人に請求がくるリスクがあります。

また、遺言によって具体的に遺産分割の方法が指定されているとき(例えば甲不動産の2分の1をAに、2分の1をBにそれぞれ相続させる、などの文言があるとき)は、もはや相続分ではなく共有持分となり、相続分の譲渡はできなくなります。

相続分譲渡証明書を作成する

相続分の譲渡は口頭でも行うことができますが、のちに相続分の譲渡があったことを証明することが困難となりますので、通常は書面を作成します。

相続分譲渡証明書を作成しておくと、相続財産に不動産が含まれる場合の登記手続きにおいて使用することができます。相続分譲渡証明書には実印で署名捺印をし、印鑑証明書を添付します。

相続分の取戻権に注意

相続人の権利を守るために、相続分の取戻権というものが民法第905条に規定されています。相続分の取戻権とは、共同相続人が遺産分割前に相続分を譲渡された場合に、その相続分を取り戻すことができる権利です。ただし、相続分の取戻権を行使するためには期限があり、共同相続人が相続分の譲渡が行われたことを知ってから1ヶ月以内とされています。つまり1ヶ月間は譲受人は不安定な立場に置かれることになります。

このように、知っておくと便利な相続分の譲渡ですが、専門知識が必要になる分野ですので、具体的に希望される場合には専門家にご相談された方がよろしいかと思います。

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