労働問題②未払賃金の請求

司法書士のリアル

給与が支払われない、または支払いが遅れている、などの場面について考えます。

給与支払いが遅れている場合の未払賃金請求

まだ会社が事実上の倒産はしていないないものの給料の支払いが遅れがち、という場合には早急に証拠を収集し、法的手段の準備を進めることが重要です。

就業規則、タイムカード、営業日報、給与明細、源泉徴収票、賃金台帳などのほかに、経営者との交渉により、労働債権があることを確認した書面を取り付けておくと確実です。あらかじめ書面の文案を作成しておき、会社実印を押してもらい、会社の印鑑証明書を取り付けておくのが望ましいです。

一般の先取特権による差押え

債権回収の方法ですが、雇用関係に基づく一般の先取特権による差押えをします。雇用関係の先取特権とは、民法308条で規定されているように、雇用者(債務者)と労働者(債権者)との間の雇用関係に基づいて生じた債権(給料、退職金など)について、労働者が債務者の総財産から他の債権者に先立って優先的に弁済を受ける権利です。これは、労働者の生活保障を目的とした社会政策的な考慮から、労働者に当然に認められているものです。

差押えの申立てには「担保権の存在を証する書面」が必要です。雇用契約の存在、給料額の定め、労務の提供、を証明する書面を準備します。

具体的には裁判所HPに掲載されています↓

雇用関係先取特権証明文書 | 裁判所
裁判所のホームページです。裁判例情報、司法統計、裁判手続などに関する情報を掲載しています。

保全処分としての仮差押え

証明文書が不十分な場合には、先立って仮差押えにより債権保全をします。

仮差押えは、労働債権の存在を疎明すれば足りるので、証拠収集に時間がかかる場合や、他の債権者との関係で一刻も早い手続きを要する場合にはすばやく命令が出るメリットがあります。

仮差押えには保証金が必要ですが、労働債権の場合には債権額の5%〜10%と、通常の保証金よりも低額になります。

しかし、あくまでも保全手段ですので、給料債権の回収には改めて本執行を申し立てなければなりません。

賃料仮払いの仮処分

いわゆる仮の地位を定める仮処分ですが、本案判決を待たずに会社の財産に強制執行できるメリットがあります。

しかし、この仮処分命令はあ原則として審尋期日を経なければ発せられないので、発令までに相当程度時間がかかります。

また、会社にめぼしい財産がない場合には有効な手段とはいえません。

会社が破産した場合の未払賃金請求

会社が破産の申立てをし、解雇通告を受けた場合を考えてみます。

破産手続き開始前3か月分の給与、および退職前3か月間の給料に相当する退職金は、財団債権として扱われ、その他の給与については優先的破産債権となります。

裁判所から債権届が郵送されてきたら、未払い賃金の内容を書いて裁判所へ送付します。裁判所から通知が届かない場合、債権者一覧表から漏れている可能性があります。その場合には、破産管財人となっている弁護士に連絡をとり、債権届を送付してもらうようにします。

退職金については、就業規則や退職金規程に支給する旨の定めがない場合には、請求は難しいかもしれません。客観的な証拠がない場合、破産債権として認められない可能性があるからです。

財団債権となった場合でも、破産財団が少ない場合には全額の配当は受けられず、債権額の割合による配当となります。

財団債権とならなかった給与債権は、一般の先取特権として他の債権よりも優先的に扱われます。必ず債権届をし、配当を受けることになります。

解雇予告手当とは

ところで、従業員を解雇するにあたっては少なくとも30日以上前に予告をしなければなりません。しかし、破産申立てをする場合、破産することが外部に漏れると手続きが円滑に進まないことから、直前まで従業員に知らされないことが多く、即時解雇されることになります。その場合、従業員は会社に対して解雇予告手当請求権を有することになります。

解雇予告手当は、解雇予告をしない場合、または解雇予告期間が30日に満たない場合に、その不足日数分の平均賃金を支払う必要があります。計算方法は、「平均賃金×不足日数」で算出します。平均賃金は、解雇日の直前3ヶ月間の賃金総額を、その期間の総日数で割ることで求められます。

なお、解雇予告手当は請求できるときから2年間行使しないと時効により消滅します。

この解雇予告手当については、裁判所により取扱いが異なるようです。東京地裁、神戸地裁などの一部の裁判所では、解雇予告手当を財団債権として取扱い、大阪地裁では財団債権としては扱わないものの弁済許可の制度を取っています。

国の立替払制度を利用する

会社の倒産により賃金や退職金が支払われない労働者のために、「未払賃金立替払制度」といって、企業倒産により賃金が支払われないまま退職した労働者に対して、国が未払賃金の一部を立替払する制度があります。

事業者の条件
  1. 労災保険の適用事業の事業主、かつ、1年以上事業を実施
  2. 倒産したこと
    • 法律上の倒産:破産手続開始の決定(破産法)、特別清算手続開始の命令(会社法)、再生手続開始の決定(民事再生法)、更生手続開始の決定(会社更生法)
    • 事実上の倒産(中小企業事業主のみ):事業活動停止、再開見込みなし、賃金支払能力なし(労働基準監督署長の認定)
労働者の条件
  • 破産手続開始等の申立て(事実上の倒産の認定申請)の6か月前の日から2年間に退職
  • 未払賃金額等について、法律上の倒産の場合には、破産管財人等が証明(事実上の倒産
    の場合には、労働基準監督署長が確認)
  • 破産手続開始の決定等(事実上の倒産の認定)の日の翌日から2年以内に立替払請求

会社が倒産し、労働者が退職してから6か月以上経過している場合には対象にならないことになってしまいます。財政状況が悪化していながら倒産認定がされていない会社の場合も同様です。そのような場合には、早急に倒産認定をするよう直ちに労基署へ働きかけをしなければなりません。

立替払の額は未払賃金総額の8割です。ただし、退職日における年齢により、立替払の上限が定められています。

未払賃金請求にはそれなりに時間がかかりますから、取り急ぎ生活に困窮しないよう、この制度を利用するのも有効です。

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