こんにちは。前回の記事から大分時間が空いてしまいました。実は、私事で緊急入院しておりまして、一昨日やっと退院できた次第です。健康には気をつけないといけないですね。詳細はまた次回お伝えします。
さて、前回は法定後見についてのテーマでしたので、今回は任意後見について法定後見との違いを示しながら仕組みをご説明していきます。
法定後見との違い
一番の大きな違いは、法定後見はすでに判断能力が減退したあとに家庭裁判所の関与の下で始まるのですが、任意後見はその前、つまり本人の判断能力が正常なうちに後見人および後見事務の内容についてあらかじめ自分で決めておける、という点です。
法定後見は家庭裁判所における申立てで始まるのに対し、任意後見は当事者間での自由契約です。ただし、万が一任意後見人が不正を働いたり、必要な行為を怠ったりしても本人自らは監督することが困難となるため、実際の支援(後見)をスタートさせるには家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立てなければなりません。また、任意後見契約は必ず公証人が作成する公正証書によらなければなりません。加えて、契約内容は登記されますので、第三者は誰でも登記内容を知ることができます。
このように、私的自治の原則を守りながら、本人保護のためのいくつかの制度が備わっている、というのが任意後見制度です。
任意後見の3類型
任意後見には、本人の状態の程度によって3つの類型に分けることができます。
【将来型】任意後見契約
現在においては特に後見の必要性がない場合に、将来的に任意後見契約を発効させるまで、特に何の法的支援を行わない、というものです。いつ判断能力が減退し、後見の必要性が生じるかわかりませんので、一般的には1〜2ヶ月ごとに連絡を取り合い、3〜4ヶ月ごとに面談を行う、というケースが多いようです。
【移行型】任意後見契約
将来、任意後見契約を発効させるまでの間、本人が何らかの不安を抱えていたり生活に支障が生じている場合に、委任後見契約と関連づけた事務を単に「委任契約」または「財産管理等委任契約」として締結しておく、というものです。後見開始前は委任契約として、後見開始後は任意後見契約に移行するので、移行型と呼ばれます。
【即効型】任意後見契約
すでに、判断能力の低下が認められる状況にあり、本人が任意後見契約による身上保護・財産管理事務を開始させたいとき、任意後見契約の締結後速やかに、任意後見監督人の選任申立てをする場合です。ただし、この類型の契約を締結するには十分な注意が必要です。なぜなら、すでに判断能力が不十分な状況における契約は無効になったり、取り消されることも考えられるからです。ですので、このような状況下では原則として、法定後見制度の利用が推奨されます。
任意後見人ができること
では、具体的に任意後見人ができることとはどういうことなのかを挙げていきます。
任意後見人は代理権、つまり本人に代わって法律行為をする権限のみが与えられます。法定後見は同意権や取消権も与えられますから、この点が異なります。
一般的に、任意後見契約時に代理権項目として次のようなことを挙げていきます。
- 本人に帰属するすべての財産の管理、保存、処分
- 本人に帰属するすべての預貯金の管理、入出金、振込み、管理口座開設など
- 本人に帰属するすべての投資信託や有価証券の管理、解約、売買等取引
- 本人に帰属する一切の収入の受領(年金、家賃等)
- 本人に帰属する一切の支出の支払(公共料金、家賃、診察料等)
- 日用生活に関する取引き、生活費の送金
- 保険金の請求、受領
- 証書類、情報の管理、使用、提供
- 物品の管理、解約など手続き
- 電子機器、電子情報の管理、変更、解約
また、必要に応じて次の項目も決めていきます。
- 医療契約、介護契約、福祉サービスの利用契約
- 要介護認定、障害区分認定のほか、福祉関係の措置に関する申請
- 居住用不動産の購入、賃貸借、住居の新築、増改築、修繕
- 金銭消費貸借や担保権の設定
- 相続の承認、放棄、遺産分割協議、遺留分侵害額の請求
- 保険契約
- 行政官庁に対する諸手続き
- 錯誤、詐欺、脅迫、クーリングオフによる契約取消し
- 法定後見開始の審判申立て
- 委任者の生活、療養看護、財産管理に関する一切の法律行為
任意後見人が具体的にどのようなことができるのか、大体お分かりいただけたと思います。後見人ができるのはあくまで身上保護事務と財産管理事務であり、介護や日常生活のサポートは含まれていないことは法定後見の場合と同じです。
これらの事務を遂行するにあたり、指針としてあらかじめ本人の意向や考え方を聞き取ることも大切です。これを「ライフプラン」の策定といいます。ライフプランには、食の嗜好や財産の処分の仕方、受けたい医療内容などを盛り込んでおきます。
任意後見契約を補完する契約
【将来型】任意後見契約、【移行型】任意後見契約でも少し触れましたが、任意後見契約だけでは不十分なところがありますので、本人の状態に合わせた契約で補完していく必要があります。
継続的見守り契約
【将来型】任意後見契約で触れましたが、現在においては特に後見の必要性がない場合、任意後見の開始まで時間が空きますので、その間電話連絡や、面談を行って、本人との信頼関係を継続していくことが大切です。定期的な連絡・面談の方法、判断能力が低下したときの家庭裁判所への任意後見監督人選任申立てなどを契約の内容とします。
財産管理等委任契約
【移行型】任意後見契約で触れたように、任意後見契約を発効させるまでの間、本人が何らかの不安を抱えていたり生活に支障が生じている場合に、委任契約を締結することによって、財産の管理保存行為を代理してもらうことが可能になります。代理事務の項目としては、任意後見契約における代理権項目とほぼ同じものを設定できます。後見開始前においても、後見開始後においても、同じ内容で財産管理を行ってもらえることになり、スムーズに任意後見契約へ移行できるわけです。
死後事務委任契約
任意後見契約は、本人が死亡することにより終了してしまいますので、身寄りのないおひとりさまの高齢者の方などは死後の事務も併せて委任しておくと安心です。
委任する事務の内容としては次のようなものが考えられます。
- 病院、老人福祉施設、警察関係者との連絡
- 菩提寺、葬儀社への連絡事務
- 葬儀、火葬、納骨、埋葬に関する契約
- 医療費、老人福祉施設、介護サービスなどの利用料の弁済
- 本人の生活用品の処分
- 行政官庁への諸手続き
- 各事務に関する費用の支払い
任意後見制度は、法定後見と違って当事者の自由意志に基づいた契約により遂行され、内容も自由に決めることができる制度です。将来の財産管理についてご心配のある方は、一度ご検討されてみてください。