さて、相続についての実務に話は戻ります。
相続人の1人や土地共有者が行方不明の場合
相続人のうちの誰かが行方不明だったとします。生前であれば行方不明の相続人以外の相続人へ遺言により相続させる、という方法がありますが、生前対策を何もせずに亡くなった場合、どのようにすればよいのでしょうか。
このような場合、裁判所に不在者財産管理人の申立てをします。選任された財産管理人が行方不明者の代わりに遺産分割協議をすることになります。
不在者財産管理人の職務は、読んで字のごとく不在者の財産の管理です。家庭裁判所の一般的な監督のもとに、不在者の法定代理人として不在者のために財産を管理し、不在者が現れたときにその財産を引き渡すことを任務とします。管理の具体的な内容ですが、原則として賃料の徴収、期限の到来した債務の弁済などの保存行為、財産の性質を変えない範囲内の利用・改良行為のみを行うことができます。
管理財産の処分には家庭裁判所の許可が必要
財産管理人は、財産の管理行為はできますが、処分行為はできません。したがって、財産の売却、遺産分割等、財産の処分を必要とする特別の事情がある場合は、家庭裁判所に対して『不在者財産管理人権限外行為許可申立て』をして、その許可を受ける必要があります。(民法 28 条)。
主な権限外行為は次のとおりです。
① 遺産分割
② 保険金の解約
③ 不動産の処分(不動産の賃貸、建物の取り壊しを含む。)
④ 動産の売却、譲渡、贈与、廃棄(自動車の売却や廃車手続きを含む。)
⑤ 訴訟の提起、訴えの取下げ、訴訟上の和解、調停
不在者財産管理人選任の申立て
では、不在者財産管理人選任の申し立てについてみていきます。
まず、申立人は次のとおりです。
- 利害関係人
- 検察官
利害関係人とは具体的にどのような人を指すのでしょうか。次のような人が認められると考えられています。
続いて、誰が選任されるかですが、不在者との関係や利害関係の有無などを考慮して,適格性が判断されているようです。親族でも管理人になることができますが、弁護士,司法書士などの専門職が選ばれることが多いようです。
報酬については財産管理人から請求があった場合、家庭裁判所の判断により、不在者の財産から支払われることになります。不在者の財産管理を継続する場合、毎年報酬が支弁され続けることになります。
帰来時弁済型遺産分割が有効
先の事例に戻って、行方不明の相続人に代わり専門職の不在者財産管理人が選任されたとします。遺産分割協議により不在者が相続分を得たとすると、不在者の相続分から報酬を受けることになります。不在者が帰来しなかった場合、すべての相続財産が報酬になってしまいかねません。
そこで、不在者の相続分を一旦他の相続人が取得し、不在者が帰来した場合には不在者に相続分を支払う、という遺産分割協議をすることが有効になります。このような遺産分割方法を帰来時弁済型といいます。こうしておくことにより、管理人は不在者の管理を継続する必要がなくなるのです。
長期の行方不明時は失踪宣告も検討する
不在者の生死不明の状態が長期間続いている場合には、失踪宣告制度を利用することも検討していきます。不在者の配偶者や他の相続人の地位がいつまでも不確定となってしまうからです。
失踪宣告には一定の要件があります。
- 不在者の生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)
- 戦争,船舶の沈没,震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後不在者の生死が1年間明らかでないとき(危難失踪)
不在者の生死が不明になってから7年間が満了したとき(危難失踪の場合は、危難が去ったとき)に死亡したものとみなされ、不在者(失踪者)についての相続が開始されます。また、仮に不在者が婚姻をしていれば、死亡とみなされることにより、婚姻関係が解消します。
失踪宣告の申立てがされると、申立人や不在者の親族などに対し家庭裁判所調査官による調査が行われます。その後、裁判所が定めた期間内(3か月以上。危難失踪の場合は1か月以上)に不在者は生存の届出をするように、不在者の生存を知っている人はその届出をするように官報や裁判所の掲示板で催告をして、その期間内に届出などがなかったときに失踪の宣告がされます。
不在者財産管理人の選任は申立てから1〜3ヶ月程度ですが、失踪宣告の場合は申立てから半年以上かかるようですので、注意が必要です。